一般のことばとオノマトペの決定的違い
【今井】まず、音そのものが意味をもつというところです。一般のことば、例えば「うさぎ」という音から意味は連想できないですよね、でも「ふわふわ」というオノマトペはいかにもふっくらやわらかい印象を与えます。でも、音と意味にすぐわかるつながりがない場合でも、ことばの形から「オノマトペ」と捉えられることもあります。
例えば音を重ねる。「皺」はオノマトペではないですが、「しわしわ」と重ねるとオノマトペのように聞こえます。特に幼児ではよく音を重ねます。「拭く」という動詞も、「ふきふき」と言うとオノマトペらしくなる。だから重ねるリズムで動きの連続性を表現する、ということはありますね。
あと、オノマトペだと、特定の音を伸ばして言ったり、短く言ったりして、言いたいことを強調することもしやすいです。例えば「道路がつるつるしている」というのを「道路がつーるつるだ」と言ったり、「ずずっとすべった」というのを「ずずーっとすべった」と言ったり。オノマトペでないことばではしにくいですね。「やわらかい」を強調するのに「やーわらかい」とはあまり言いませんよね。
赤ちゃんことば扱いから重要な研究対象に
【為末】オノマトペはそれ自体が意味をもたないことも大事ですか? チャーシューメンというとそれ自体意味をもってしまう。それは関係ないですか?
【今井】オノマトペに意味がないかといえば、意味はあると思います。ただ、チャーシューメンは物理的な対象がありますよね。オノマトペは物理的な対象自体を指すというより、その属性を引っ張ってきて、音で表したものといえると思います。
オノマトペについて、おすすめの本がありますよ。山口仲美先生というオノマトペ研究の大家が書かれた『オノマトペの歴史』(風間書房)。ベストセラーになった『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社未来ライブラリー)をはじめ、過去に発表された論文などを集めたもので、1巻と2巻があります。これは本当に面白いし、示唆深いですね。
【為末】へえ、面白そうですね。
【今井】為末さん、けっこう夢中になるんじゃないかな。古典を紐解きながら、オノマトペがどういうふうに発展してきたのかなどが書かれていて、学術的ですけれど読みやすいです。
言語学ではかつて、オノマトペは単なる赤ちゃんことばのような扱いでした。でも、今は言語学でも、心理学でも、多くの研究者が取り組む大きなテーマになりました。
オノマトペは日本語だけでなく、世界中にあるのですが、私は、それが言語の進化にとって重要な鍵になっていると考えています。
【為末】言語の進化ですか?