なぜ子供たちはアンパンマンが大好きなのか

【今井】響きがよいということは非常に大事だと思いますね。以前、特急列車に乗っていた時、前の席の2、3歳の男の子が、ずっと「アンパンマン!」と言い続けていたことがありました。ご両親は、それはもう気がおかしくなりそうな感じでしたが、私はその時、啓示を受けたのです。アンパンマンというのは、すごいことばなのだと。

2歳くらいの子どもは、アンパンマンが本当に大好きなのですが、あれはアンパンマンのキャラクターが好きという以前に、アンパンマンということばの響きがよいからだと思いました。

【為末】なるほど、ことばの響きですね!

【今井】2歳くらいの子どもには、発音しにくいことばというのがたくさんあって、「たちつてと」「さしすせそ」「らりるれろ」などは、うまく言えません。でも、聴覚は赤ちゃんの時から発達しているので、音の聞き分けはできるのです。それで、自分で言えない音でも、これは違うということがわかってしまう。

音波のカラフルなシルエット
写真=iStock.com/Sandipkumar Patel
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オノマトペ的なことばは外国選手にも通じる

だから大人が、子どもの真似をして、例えば「ライオン」を「ダイオン」と言うなど、間違った発音をすると、子どもはすごく怒るわけです。そうじゃないでしょ、と。自分は言えないというもどかしさがあるわけです。そうした子どもたちにとって、アンパンマンということばは、口を開けて閉じればいいので、あれほど言いやすいことばはありません。

先ほど、私たちはお母さんのおなかの中にいる頃から、リズムや音の上がり下がりによって、ことばを認識しているとお話ししましたが、そういう意味で、韻律は、ことばの要素としてはいちばん原初的です。ですから、為末さんがおっしゃった「タタタタ・ズッ・ターン」のような表現は、外国の選手にも通じるのではないでしょうか。

【為末】ええ、英語を話せない時、外国の選手に、ハードルのことをそうやって教えていました。あと、リズムの表現として、ゴルフでは「チャーシューメン」という言い方をするそうです。僕の動きは、「タンタンメン」になっている、「チャー」で待てと言われました。

【今井】あ、そうなの!(笑)

【為末】そういうのもオノマトペに入るのでしょうか。

【今井】はい、入ると思います(笑)。実は、オノマトペに決まった定義があるわけではないのです。ただ、いくつか特徴はあります。