「今を生きろ」は難しい
「この瞬間を大切に生きることが大事だと思うようになった」
生死に関わるような大きな困難を乗り越えたある著名人が、あるとき、このようなことを雑誌のインタビューで話していた。
「今を生きろ」というメッセージはまったくその通りなのだが、常に今を慈しむかのように生きることは実際には難しい。
現実には、過去を振り返ってあれこれ悔やんでみたり、将来のことを案じたり、なかなか今という瞬間に没頭できないものである。
今度、はない
私はシュノーケリングで海に潜るのが好きで、以前はパラオによく出かけた。パラオの海の美しさを仲の良い知人に話したところ、「今度行くとき、私も連れて行ってほしいです」と言われたことがあった。
そのとき、私は「いや、“今度”というのはないんだよ」と返したのだが、その人は、何か腹にストンと落ちるものがあったという。よく聞くと、「『今を生きろ』と言われてもピンと来ないけど、『今度はない』と言われると、逆に『今』なんだということが切実に響いてきます」というのだ。
実際、今度というのは当てにならない話である。パラオにはその後、長らく行ってはいない。二度と行かない可能性も高い。未来に確実なことは何ひとつないのだ。
「今度、はない」
そんなことを日々の生活のなかでときおり意識することで、与えられた生の時間の質は変わってくるのではないだろうか。
心を研ぎ澄まし、「感覚」を磨く
私が勝負師として生きていくうえで土台となったものは、心を研ぎ澄ますことで生まれる感覚であった。勝負や人生における私の行動、そして思考や言葉といったものは、すべてそこを貫く感覚から生まれている。
それらのエッセンスを選りすぐってまとめたものが、『雀鬼語録』に収録した86の言葉である。
何を手がかりにすればよいかわからない時代においては、前へ進むための羅針盤のようなものが必要である。本書にあげた言葉のいくつかでも、そのヒントの一端になることがあれば、筆者としては望外の喜びである。