「見えない道」を歩け

そんな考えで勝負の世界を生きてきた自らのこれまでの歩みを振り返ると、私は人が歩いていない道を好んで歩いてきたと思う。みなが通る大きなわかりやすい道は端から興味がなかった。

多数の人が歩く大きな道は、たしかに安全で安心だろう。でも、私からすれば、安全や安心ばかりを求めて前へ進むことは、このうえなく退屈に感じたのである。

「雀鬼」として知られる桜井章一さん
撮影=野辺竜馬
「雀鬼」として知られる桜井章一さん

アフリカに生まれた人類が世界中に拡散していった旅を「グレートジャーニー」というが、未開拓の地を切り拓いて前進していった彼らの旅は、まさに見えない道を歩く旅だったに違いない。

人類をグレートジャーニーの旅へ導いた遺伝子は、我々子孫にも受け継がれているはずである。しかし、長い時間をかけて文明を築くなかで次第に埋もれていき、今ではあまり表に顔を出さなくなってしまったかのようだ。

自分だけの道を見つける

だが、人類が前に進んでいくには、見えない道を歩く遺伝子をフルに働かせて、新しい道を切り拓く人間が必ずいなくてはならない。

もちろん、未踏の地を往くには危険がつきものだ。だが、感性と能力を最大限に使って道を切り拓き、新しい何かを発見したり、つくったりすることには、このうえない喜びと満足感がある。

人生に迷いや退屈を感じたりするのは、常識や固定観念で塗り固められた大きな道ばかり歩いているからかもしれない。

時にはそこから逸れて見えない道を探ってみてはどうか。大きな道を歩いている限り、人と同じことしかできないが、自分だけの道を見つければ生きる手応えをきっと感じるはずだ。