とんかつ、カレー、コロッケの「三大洋食」はいつ頃から広まったのか。生活史研究家の阿古真理さんは「大正時代にはどれも人気料理となり、多くの人に親しまれていた。その背景には料理人たちのさまざまな工夫があった」という――。(第2回)
※本稿は、阿古真理『おいしい食の流行史』(青幻舎)の一部を再編集したものです。
ヨーロッパのカツレツが「とんかつ」になるまで
とんかつの誕生秘話については、よく語られているのでご存じの方も多いかもしれません。もともとは、ヨーロッパにあるカツレツが原型です。ウィーン名物のヴィーナー・シュニッツェルなどもその一つですね。肉を薄く叩いてパン粉の衣をつけ、揚げ焼きにする料理は、油っこくてちょっとベトベトしています。つけ合わせは温野菜です。使う肉は牛肉か鶏肉。
明治後期、女性誌の『女鑑』(國光社)や村井弦斎のベストセラー小説の『食道楽』(報知社出版部)などで使うよう指示する肉は、牛か鶏。また、内田百閒も『御馳走帖』(中公文庫、1979年)のエッセイで、カツレツと言えばビーフカツレツだと書いています。チキンカツも人気でした。
しかし、日清日露の戦争で牛肉が足りなくなると、豚肉が普及して、カツも豚肉を使うようになります。
そして、薄くて油っこかったカツレツが、さっくり揚げた現在のとんかつになるにあたっては、2段階の変化がありました。
『zakzak by夕刊フジ』(産経新聞社)の2017年9月1日配信の「松浦達也 肉道場入門!」シリーズ記事によれば、レシピとしては1888年に出版された『軽便西洋料理法指南』(マダーム・ブラン著、洋食庖人編、久野木信善)で紹介されています。