過信と知識不足で「組める相手と組めなかった」

いまから考えれば、われわれが開発したオリジナリティーの高い技術を持っている状況であるなら、最大手のキャリアとも全然組み得たと思います。

しかし、他のキャリアとも同時並行で組んでいけるだろうと見立てていた。敏感さが足りなかったのでしょう。むしろ、その通信キャリア同士で実は強烈な競争にしのぎを削っていて、われわれが同時並行でつきあえるような状況ではすでになかったんです。最大手と手を組めたはずなのに組まなかったという致命的な教訓になりました。

複数の通信キャリアと手を組めるだろうと思っていた過信、そしてキャリアの競争環境の激しさを理解していなかった知識不足です。

川邊健太郎氏
撮影=遠藤素子
「順番を間違えないということが大事」と語る川邊氏。最大手を組めなかったことが、経営上の大きな課題になった。

技術だけでは成功できない…手を組む相手を見極める重要性

それは、いまでもわれわれの経営方針に通じています。たとえば、たまたま声をかけてきてくれたところとパートナーシップを結ぶ交渉を始めたときでも、途中で立ち止まって、「いま話し合っているところが最大手といえるのか」と必ず確認するようになった。

あるいは、「最大手とも交渉しなくていいのか」というように、手痛い経験があるからこそ、ものすごく大きな教訓になっています。いわば、その瞬間でのスクリーンショットのシェアのことといいかえられますから、見極めるのはそう難しいことではありません。大事なのは、それを冷静に考慮に入れるかどうか、ということです。

必要な失敗をした事業こそ成功していくし、失敗が深ければ深いほど大成功につながっていくとも実感しています。

「Yahoo! BB」の経験と「PayPay」の成功

冒頭に申し上げたとおり、必要な失敗をしたほうから成功していくし、失敗が深ければ深いほど大成功につながっていく。2000年代前半、ADSLサービス「Yahoo! BB」を普及させるために、駅前や家電量販店でモデム機器を大々的に無料で配ったとき様々な混乱が起きたことも、後になって振り返れば貴重な経験でした。

たくさんの体験を積み重ねてきたからこそ、たとえばスマートフォン決済サービス「PayPay」を急成長させることができたという感覚があります。Yahoo! BBの経験なくして、PayPay普及の一発勝負でうまくいったかどうかはわかりません。何か新しいものを普及させるときのやり方がもたらす成功と失敗の結果というのは、本当に表裏一体だと痛感します。

Yahoo! BBのADSLにしても、すぐに光ファイバーによるインターネット通信に取って代わられていったりと、事業の将来と最終的な成否はわかりません。その瞬間でのスクリーンショットによる判断と申し上げたとおりです。ただし、いろいろな経験がPayPayには生きているのはたしかです。

さらに、QRコード決済という意味では、たしかにキャッシュレス化を一気に広めたと思います。すぐ隣を見れば、強敵もたくさんいますから、PayPayの成功に安住せず、日々精進というところです。