シニアが量産されたのは集団を強くする「正のスパイラル」

ここまでは、ずいぶん昔、ヒトとサルが分岐した後、集団生活が発達し共同体である「社会」を形成していく石器時代以前の過程の話です。シニアの活躍により集団が安定し、選択により寿命が延び、さらにシニアの数が増え、集団が大きくなり社会が豊かになっていったという話でした。もちろん寿命の延長の結果、文明も飛躍的に発展することになります。

言うまでもありませんが、このシニア量産の「正のスパイラル」は現代社会にまで続いています。ヒトの集団の中で一番数が多く、全ての基本となるのは今も昔も家族です。その中でシニア、つまり子育てのスキルに長けた人のニーズは明らかに今でも健在です。私も母がアメリカまで来てくれたおかげで、どれだけ助けられたかわかりません。おばあちゃんさまさまです。アメリカなのでアルバイトのベビーシッターさんもお願いしたことがありますが、おばあちゃんのスキルと愛情には敵いません。

3世代家族
写真=iStock.com/kokouu
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会社や政治の場でもシニアの「調整力」が役に立っている

家族の次に多い集団は、事業所、いわゆる「会社」です。多くの企業は儲けることが目的で、事業を効率良く進めるために全ての社員には「役職」があり、分業しています。その役職の割り振りは、小さな会社では社長や役員が、大きな会社では人事部などの専門部署が行います。いずれも担当者は通常、会社の中のシニアです。

小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)
小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)

会社のいろいろなことがよくわかっていないと適材適所に人員を配置することができません。若いベンチャー企業では、設立当初にはシニアはほとんどいない場合もありますが、会社として成長してきたら、やがては同じような構造になると思います。今でもシニアは組織をまとめ、利害を調整し生産性を向上させる上での重要な役割を担っているのです。

国をまとめる政治家ももちろんそうです。これこそいろいろな人の利害関係がよくわかり、それらの調整ができるシニアが適材です。極端な理想や現状の批判だけを掲げて当選する政治家も時々いますが、その後の始末が大変なことになっている場合があるのはご存じの通りです。政策はもちろん大切ですが、刻々と変化する情勢の中で、適切に判断していく能力・経験・知識と人を説得できる人間性を持った人を、政治家には選ばないといけませんね。