いまや日本では65歳以上の高齢者が人口の約30%を占め、平均寿命は男性81年、女性87年になっている。東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授は「生物の中でなぜヒトだけが長い老後を獲得したのか。そもそもシニアがいる集団だから人間社会は大きく強く豊かになり、その中でさらにシニアの役割が増大し、シニア量産の正のスパイラルが起こったと考えられる」という――。

※本稿は、小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

ベンチに座っている3人の高齢者
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ヒト以外の生物はほとんどが「ピンピンコロリ」と死ぬ

ヒトは、これまで築いてきた「社会」により、他の生き物に食べられたり、飢え死にしたりするようなことは少なく、他の生物には見られない長い老後の期間を獲得してきました。つまり、本来は進化の過程で、長い老化した期間がある生物は選択されてこなかった、生き残ってこられなかったにもかかわらず、ヒトだけが例外的な存在になったのです。

ある意味「ヒトの社会が作り出した」とも言える「老化」そして「老後」とは、一体なんなのでしょうか? なぜ進化において「老化するヒト」が選択されて生き残ってこられたのでしょうか?

多くの生物にとって、老化して動きが緩慢になることは生存には不利なので、老化、つまり体がだんだん衰えていく状態は、積極的に選択されてきたものではなかったと思われます。つまり普通に考えれば、老化なんかないほうがいいのです。「老化がない」というのはどういうことかというと、死は必然なので「不老不死」になるというわけでなく、老いずに死ぬ、つまり「ピンピンコロリ」と死ぬことを意味します。