ヒトが繁栄した理由、「シニア」がいる集団は有利だった

ヒトの長寿化を導いた、男女の年長者の社会での活躍を推察してみます。ここから先は、年長者の代わりに「シニア」という言葉を使っていきます。その理由は、集団の中での「役割」を重視して、生理的な「年齢」とは切り離して考えるためです。

一般的に「シニア」という言葉は、65歳以上の入場料の割引(シニア割)などに使われますが、ここでは何歳からが「シニア」という年齢による線引きはなく、「シニア」は集団中で相対的に経験・知識、あるいは技術に長じた、物事を広く深くバランス良く見られる人を意味します。

実際には「シニア」は、集団においても組織においても歳を重ねた年長者が多いのはご存じの通りです。そしてこのシニアに対する集団の大きなニーズ(必要性)が、生理的な老化をも打ち負かして長寿を獲得していくという話をしていきます。

ヒトは家族を基本単位とした集団(コミュニティ、共同体)の中で進化し、その結束力を武器として、生き残ってきました。個人としては共同体に貢献できるヒトが選択されて、生き残ってきたことになります。力を合わせれば巨大マンモスでも倒せたのです。集団としての結束力が強まり、生産性が向上すると生活の基盤が安定し、子供が増え、同時にシニアのニーズが増大していったと推察されます。つまりは、シニアのいるコミュニティはさまざまな点で有利だったのです。

人間社会には「言葉で教育してくれる人」が必要

たとえば、子育てに加えて、技術が発展し文明が開化してくると、生活の知恵や共同体のルール作りやその伝授、つまり教育の量と質は極めて重要となります。動物の中には、あまり教わらずに本能的に子育てをする種もいますが、それは通常パターン化されており、ヒトのように日々進歩・発展する社会性の生き物には向いていません。

ヒトの社会では、教育内容も常にバージョンアップが必要なのです。特にコミュニケーションや思考の道具である「言葉」の教育は最重要です。ヒトは誰からか生きるすべを教わらないと、一瞬にして原始時代に戻ってしまいます。「ヒト」は教育で「人」になるのです。

【図表3】90歳まで生きる人の割合の変遷
出典=厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」2023年7月28日発表