周囲の人たちが違いを知ることが“第一歩”
知らず知らずのうちに怪我をしたり、体調を悪化させる危険のある「感覚鈍麻」。まずは大事に至らぬように、本人のみならず、周囲の人間がしかるべき配慮――定期的にトイレに行かせる、水を飲ませる、など――をする必要がある。たとえば子どもの場合、虫歯の痛みなどに気づけず、親が発見したときにはひどい虫歯になっている、といったケースも少なくないそうだ。その苦悩は、多岐にわたる。
黒川医師は、次のようにメッセージを贈る。
「本来、感覚は一人ひとり違い、どんな感覚もその人の個性です。私たちは『感覚のとらえ方には幅がある』ということを意識し、特性のある人の声を聞いて、どんなことに困っているかを知ったり、どんな配慮があれば問題なく過ごせるかに想像をめぐらせる必要があるでしょう」
そう、顔かたちに個性があるように、感覚も一人ひとり違うもの。そこで、まずは私たちが「こんなふうに感じる人がいる」「決しておかしいことではない」と知ることが、すべての“第一歩”となるだろう。一方で、いわゆる周囲からの“配慮”のみでなく、感覚特性を持つ当事者からの“発信”が、周囲への理解を促すためにも必須となる。
当事者も「できること」「できないこと」を発信する
加藤路瑛さんは、そんな感覚特性の理解の一助とすべく、感覚に困りごとがあることを周囲に伝えるツールとして「感覚過敏研究所」オリジナルの「感覚過敏マーク」を作成した。手軽に利用できるよう、可愛いどうぶつたちをモティーフに造られた缶バッヂやシールは、オンラインで購入することができる。
また、自分の困りごとをうまく伝えられない子どものために「(教育機関向け)感覚過敏相談シート」も作成。こちらも、ウェブサイトから気軽にダウンロードが可能だ。
配慮を求める前に、まずは当事者が「できること」「できないこと」を自ら理解し、ツールやグッズなども活用しつつ、周囲に伝えていく。それを“当然の権利”として周囲の人が認識、理解し、然るべき配慮につなげる――。そんな社会にするためにも、まずは自らの困りごとの原因として、一人でも多くの人が「感覚鈍麻/感覚過敏」といった感覚の“個性”に気づくことを祈るばかりだ。