ドライバーが無線機に向かって言った「POB」の意味

このドライバーは、わたしが空の旅で疲れていることを察知し、名前を言って握手を交わしたとき以外は、わたしが物思いにふけるのを邪魔せずに黙って車――年季が入ったリンカーン・タウンカー――まで歩いた。

車に到着した途端、彼が乗客のプロフィールを見てわたしの身長に配慮してくれたことに気づいた。わたしの脚の空間を最大限に広げるために、フロントシートが2席とも前に引いてあったからだ。このような状況では、ほとんどの運転手はわたしが狭い後部座席で居心地悪そうに座ってからようやく、空間を広げなければと気づく。

空港を出たところで、彼は無線機を取ると「POB」と簡単に言って受話器台に戻した。わたしがPOBとは何の略ですかと尋ねると、彼は満面の笑みを浮かべて「乗客が車に乗った(Passenger on Board)の略です。つまり“あなたに集中する”という意味です」と言った。

運転手の無線
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確かに彼はわたしに集中していた。わたしの名前をマーカーで厚紙に書く前にスペルをダブルチェックした瞬間から、彼はわたしのために準備をした。わたしのためだけに。

ほんの少しの配慮で相手に大きなインパクトを残せる

通常とは違った彼の対応は、10年以上経ってもわたしの記憶に焼き付いている。この出来事は、他者と過ごすときにちょっと考えて配慮するだけで大きなインパクトを残せることを教えてくれた。実際、たいしたことをする必要はない。少し集中してわずかに調整するだけで、あなたが相手に集中していることが伝わるだろう。相手と同じ空間を共有して、言葉を交わすだけではない。相手に集中するのだ。

相手は、自分は安全で価値があり、個人として評価され、尊重され、意見を聞いてもらっていると感じるだろう。

空港であの車に乗って以来、わたしは人と接するときにもっと配慮しよう、おもてなしの心とあたたかさを心がけて、あの運転手のように自然に対応できるようにしようと決意した。それを忘れないよう、ミーティングや交流会に臨む前に、「POB」をマントラのように唱えるようになった。やがてこの略語の単語を置き換えて、きちんと意識して有意義な会話を交わすための3つの要点を表すことにした。

新たなPOBは、準備(Preparation)、関心(Orientation)、振る舞い(Behavior)だ。この3つに意図的に集中すると、対面であれ、ビデオチャットであれ、電話であれ、会話にしっかりと意識を集中させやすくなる。