そうした没落していくアッパー・ミドルに共通している点が、割り切りのできない“プチ高所得者”であるということだ。「少しお金に余裕ができたから」といっては、湧き上がる欲にまかせて買い物を繰り返す。その結果、教育費や住居費を除いた月の生活費が40万円以上という家庭も多い。そして一度味わった甘い生活を「フツーの生活」と錯覚してしまい、年収がダウンしても生活水準を切り下げる割り切りができなくなる。

普段の生活のなかでお金に対する感覚がルーズな彼らだけに、仮に貯蓄があってもその金額は想像よりもはるかに低い。貯蓄額を尋ねて返ってきた答えが「100万円」ということすらある。生活を切り詰めなければ、あっという間に消えてしまう“雀の涙”程度の蓄えしかない。それにもかかわらず妙なプライドが邪魔をして、自分たちが置かれた厳しい現実から目をそむけようとする。

たとえば男性の場合、マイカーを手放すことを嫌がる。マイカーといっても、所詮はプチ高所得者なので贅沢しようにも限界がある。ベンツやBMWなどの高級外車は“高嶺の花”で、フォルクスワーゲンやプジョーなど海外市場では大衆車クラスに乗っていることが多い。

それでも買えば300万、400万円はするが、その維持費も意外とばかにならない。外国製の精密な電子部品がいくつも組み込まれており、車検や定期点検で交換すると数十万円が飛んでいく。本来は軽自動車に買い替えてもいいところだが、「ご近所の目もある。オレに相応しい車は最低でもこのクラスだ」といって頑として譲らない。

一方、妻も知らぬ間に浪費を重ねていることが多い。特に子供の教育に関するものが大きい。プチ高所得者の場合、私立学校へ進学させていることが多く、公立学校とくらべて月謝が高かったり、寄付金や施設費などの出費がかさむことはもちろん、親同士の交際費が意外とばかにならないのだ。

実は、それより何より真っ先に見直すべきものが住宅ローンである。06年から08年にかけて都心でちょっとしたマンションブームが起きた。東京の湾岸エリアに30階、40階建てのタワーマンションが林立し、5000万~8000万円クラスの物件をプチ高所得者たちがこぞって購入していたのだ。