不動産市場を襲った「脱コロナ」後の誤算

また、不動産開発を足掛かりに、スポーツ、映画など事業の多角化を強化したワンダ・グループの資金繰り逼迫ひっぱく懸念も急速に高まった。ゼロコロナ政策の解除でワンダの業況は幾分なりとも上向くはずなのだが、同社の業績はむしろ悪化した。

中国の需要は長引くゼロコロナ政策、マンション価格の下落などによって沈滞した恐れがある。コロナ禍の中で、所得を消費ではなく債務の返済に回し、バランスシート上の債務の割合の圧縮を優先する家計は増加した。そのため、ゼロコロナ政策解除後、消費や住宅の需要はかつてのような盛り上がりを欠いたと考えられる。

ワンダはそうした変化に直撃されたといえる。5月、同社は資金繰りを確保するために富裕層が多く住む地域のモール売却を検討していると報じられた。それでも収益の減少には歯止めがかからない。7月には、欧米の大手信用格付け業者がワンダの債務不履行懸念が高まったとして格付けを引き下げた。

不動産投資で経済成長を高めてきたが…

さらに深刻なのが、政府系の緑地控股集団(グリーンランド・ホールディングス)だ。7月、同社が発行した米ドル建ての社債は債務不履行に陥った。グリーンランドのデフォルトは、共産党政権の政策立案、運営力に対する人々の懸念、不安の高まりを示唆する。その裏返しに、エバーグランデなどの経営体力の悪化に歯止めがかかりにくい状況だ。

リーマンショック後、中国経済は不動産やインフラなどの投資を増やし、経済成長率を人為的に押し上げた。それを支えたのが、共産党政権が不動産投資を強化し続け、マンションなどの価格は上昇し続けるという強い期待だ。人口の増加も、住宅需要の増加期待を高めた。過度な期待に支えられ、買うから上がる、上がるから買うという強気心理は膨張した。

それに頼って、地方政府は土地の利用権をデベロッパーに売却し、歳入は増加した。地方政府は、景気刺激のため大規模な景気対策を打ちやすかった。地方政府の共産党幹部は、全国人民代表大会(全人代)で示される経済成長の目標を達成し、出世を目指すこともできた。