睡眠の質を高める2つの仕組み

ここまでのお話を整理すると、脳は、安全50%、冒険50%の「もうちょっとでできそう」という設定でやる気になる。「もうちょっとでできそう」の設定は、睡眠中の記憶の整理でつくられる。そして、記憶の整理には、質の高い睡眠が必要、ということでした。

睡眠の質を高めるには、普遍的な法則があります。

この法則を覚えてしまえば、世の中にあふれる快眠法の情報に翻弄ほんろうさせることなく、すべてを自分で理解して、自分にあったやり方で利用することができるようになります。

睡眠を知るには、生体リズムとホメオスタシスという2つの仕組みを押さえましょう。

生体リズムとは、私たちの脳と体を形作る細胞が時間とともに刻むリズムです。睡眠はもちろん、日中の仕事がはかどるかどうかも、この生体リズムの影響を受けています。

ホメオスタシスとは、体の内外の変化に合わせて、体の中の環境を一定に保つ働きです。生体リズムが体の中のシステムだとすると、ホメオスタシスは、体の外の環境と体の中の環境を調整するシステムです。

この2つの仕組みがわかりやすく表れている体温調節の例を見てみましょう。図表3をご覧ください。点で示されているように、外界の気温に合わせて体温は上がったり下がったりして、基準を保とうとしています。これがホメオスタシスの働きです。

そして、それらの点の中央値をとるように実線で描かれているのが、生体リズムです。体温の基準そのものが、時間によって変動していることがわかります。

この2つの仕組みは、あらゆる生理現象で観察することができます。その最も観察しやすい現象が、睡眠です。

例えば、日中にたくさん動いて疲れ切ったら夜に眠くなるということがあります。活動した分だけ休息するというように、体の環境を一定に保つホメオスタシスの表れです。

しかし、これだけでは毎日疲れ切らないと眠れなくなってしまいますよね。実際には、いつも眠る時間帯になったら自然に眠くなるということもあるはずです。これが生体リズムの表れです。

菅原洋平『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(自由国民社)
菅原洋平『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(自由国民社)

眠りに悩む人は、ホメオスタシスだけに注目してしまう傾向があります。寝つきが悪くなると、昼間に過度に運動をしたり、動画を見続けて脳や体を極端に疲れさせようとするのです。しかし、この方法では眠りは改善しません。ホメオスタシスは、生体リズムの波をつくってこそ機能します。

ホメオスタシスは、その場の状況に応じて対応する後手のシステムですが、生体リズムは、これから脳と体がどんな状態になるのかを決める先手のシステムです。

生体リズムは、いわば未来を変えるツールです。

本書の目的は、この生体リズムの仕組みを知り、これから起こる脳と体の変化を先読みして行動することで、睡眠の質を変え、自然にやる気になる脳をつくり出すことです。

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