※本稿は、池谷裕二『脳は意外とタフである』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
次の仕事を少し始めておいたほうが効率が上がる
「ツァイガルニク効果」(*1)をご存知でしょうか。
旧ソビエト連邦の心理学者ブルーマ・ツァイガルニク博士が発見した「記憶」の性質です。博士が行った実験は次のようなものです。
パズルを解く、粘土細工でイヌを作る、計算をする、厚紙で箱を作る──そんな様々な課題を、計1時間のあいだに次々と20種類やってもらいました。このうち無作為に選ばれた10種類の課題については最後までやり通してもらい、残りの10個は未完成のまま中断してもらいました。
そして、どんな課題を行ったのかを、その後に思い出してもらったのです。短時間内で20個ものタスクを次々とこなすと、すべての内容を想起するのは難しいでしょう。しかし、完了していない課題は、完了した課題よりも2倍も思い出しやすいことがわかりました。課題を遂行している最中は緊張感があるため、課題から離れても、心のどこかで気にかけているのに対し、完了すると緊張感からも解放され、記憶が褪せてしまうのです。
これは日常の場面にも応用できます。たとえば、切りのよいところで仕事を切り上げるよりも、次の仕事に手を付けてから帰宅したほうが、翌朝に仕事をスムーズに始められます。また、締切まで1カ月の猶予のある仕事について、書類を開封せずに放置するよりも、手元に届いたときに一旦目を通してから放置するほうが、締切直前に仕事を素早く片付けられます。
あるいは、新しい仕事の手順を人に説明するときには、事前に多くを説明しても記憶に留まりにくく、仕事を中途までこなしたあとで説明したほうが相手によく伝わります。
仕事を中途半端にしておくのは勇気がいるものですが、実際には、放置されている最中に無意識の脳が代理で作業してくれるため、仕事の効率が高まるのです。
(*1)Zeigarnik(Psychologische Forschung 1927). Das Behalten erledigter und unerledigter Handlunge