焼肉きんぐのこれからの課題
では、「焼肉きんぐ」に死角はないのか。
高級店のように客単価の高さで勝負しない業態ゆえ、客数増で成長してきたが、最近は混雑への不満も聞く。
筆者の仕事仲間でも「自宅から近いので行ってみたいと思いながら、いつも行列。しかも予約システムが独特なので行けていない」という声もあった。
店側にとっての課題は、原材料の高騰と人材の確保だ。「特に優秀な人材確保は、この数カ月で厳しくなった」と同社も本音をもらす。コロナ禍から通常の生活モードに戻り、多くの飲食店が積極採用に転じたのもあるだろう。
行ってみたくなる仕掛けの数々
いくつか課題は残るが、それでも人気は高い。最後に「なぜ焼肉きんぐは、300店を超えるまで支持されたと思うか?」と聞いたところ、山口さんはこう説明した。
「いろんな対応を積み重ねてきた結果だと思います。実は、メニューの味つけも微妙によく変えています。最近ではカルビスープを、もう少しコクが出るようにしました。看板メニュー、炙りすき焼カルビの肉の厚さも変えています。『これぐらいの厚さのほうが卵にくぐらせて食べる時、美味しいよね』をスタッフで議論した結果です」
店の外装もこまめに変える。冒頭で紹介したように「食べ放題」や「小学生半額 幼児無料」などを看板で際立たせた。ロードサイド店が多いので、その道をよく通る人なら、行ったことがなくても目につく。中型や大型店舗が多いのも視認されやすいだろう。
同社の加藤央之社長(2020年、34歳で就任)は、「日曜の夜、みんなで焼肉を食べに行くとなった時、パッと思い浮かぶブランドであることが重要」と考え、業界1位を目指したという。その施策として数年前、テレビCMなどの広告費を3倍に増やした。「店舗数も増えたのでマス広告にシフトさせていった」(関係者)結果だという。
このようにさまざまな視点から「行ってみたくなる仕掛け」を訴求したのだ。
運営する物語コーポレーションには、「一度はじめた商売はやめない」という哲学がある。そのためにメニューも外装も、消費者ニーズや時代の変化に合わせて変えていく。