シンプルでロジカルな文章は、実は理数系人間が得意とするところ。新発想の文章術をプロが指南。まずは長文との決別から始めよう。

鎌田浩毅式文章術

火山学を専門とする私は、頻繁にフィールドワークに出かけます。このときまず行うのは、手持ちデータを使ったモデルづくり。たとえばマグマ溜まりがどこにあり、いつ噴火するのかというモデルを立ててから、調査に臨むわけです。

京都大学大学院 
人間・環境学研究科教授 
鎌田浩毅 

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業。専攻は火山学。学生からの講義の評価は教養科目の中で1位。著書に『中学受験理科の王道』『一生モノの勉強法』『火山噴火』など。

調査を始めて新たに得たデータで検証すると、多くの場合、最初につくったモデルと整合性が取れなくなります。そこでモデルを再構築して、さらに調査を進めて検証を続けます。これを繰り返すと、最初につくったモデルは跡形もなくなり、やがて納得のいく新しいモデルが出来上がります。このやり方を、私は“モデル転がし”と呼んでいます。

なぜデータをすべて揃えてからモデルをつくらないのか。それは最初にモデルがあれば、検証に必要なデータ数が把握でき、あとの調査や分析が容易になるからです。すべて材料を揃えてから分析を始めるよりも、このほうがずっと早い。

文章を書くときにも、仮説と検証のプロセスは必須です。科学者は短い論文を書くとき、実験より先に論文を書いて、あとから実験結果を付け加えます。期待通りの実験結果を得られれば、そのまま論文として提出できるし、実験結果と整合性が取れなければ論文を修正します。いずれにしてもデータを揃えてから考察を始めるより早く論文が完成します。

大切なのは、つねに仮説を疑う姿勢です。仮説の重要性については多くの人が気づいているはずですが、自分で立てた仮説に固執するあまり、都合の悪い情報を無視するなどして、むしろゴールから遠ざかってしまう人が少なくない。

仮説は情報を加えて再構築するたびに進化します。仮説は3日経ったら捨てるくらいのつもりで、どんどん転がしていく。それがスピーディでクオリティの高いアウトプットを生み出すコツです。