無事解決したのになぜか残念そうな事務員

須畑寅夫『バスドライバーのろのろ日記』(三五館シンシャ)
須畑寅夫『バスドライバーのろのろ日記』(三五館シンシャ)

すると女性はハッという感じで目を覚ますと、びっくりした様子であたりを見回している姿が車内ミラーに映った。それに気づいた私は2メートルほど離れた場所から「お客さま、大丈夫ですか?」と声をかけると、女性は自らの格好に気づき、あわててヨダレを拭い、服装を整えた。「すみません。あまりにも眠かったので」と言うと、料金を支払って、せかせかと降りていった。

無事に解決してよかったとバス車内の点検をしていたところ、営業所から事務員(*11)が駆けつけてきた。「女性はどこですか?」と鼻息あらく言われたので、「先ほど目が覚めて、無事にお帰りになりました」と返答する。「えっ、そうか……」

事務員はなぜか残念そうに言った。何を期待して急いで駆けつけてきたことやら。

(*11)営業所から事務員:東神バスでは、夜間、何かあったときに備え、助役と事務員と整備士の3名が泊まりで常駐していた。深夜にも事件は起こる。あるとき、深夜バスのドライバーが終点の2つ前のバス停で乗客がすべて降りたと思い、終点まで行かず営業所に戻ってきた。これ自体もルール違反なのだが、さらにマズイのは酔っぱらって座席に横になって寝ていた乗客がバスに残っていたことだ。乗客を起こし、丁重に詫びたうえ、社用車で自宅まで送り届けることになった。

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