ジョブ型雇用で「ますます」給料は増えなくなる

では、なぜ日本はジョブ型雇用を導入しようとしているのか。最大の目的は、労働市場の流動性を高めることです。流動性が高まることによって日本全体の生産性が向上し、給料アップにつながることが期待されているわけです。私自身も、労働市場が流動化するという意味では、ジョブ型雇用の導入をポジティブに捉えています。

ただし、本当に日本で欧米型のジョブ型雇用が浸透していくかどうかについては、懐疑的に見ています。大企業に関しては、正社員を解雇しにくい状況が続くと考えられるからです。ジョブ型雇用の核心は、「ジョブに人をつける」というところにあります。別の言い方をすれば、「ジョブが先で人は後」ということです。

メタリックな会議室のデスクに向かい合い、それぞれメモを取る人たち
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

しかし、日本の会社では「人が先でジョブが後」という考え方が定着しています。大企業では、今でも新卒で総合職採用を行なっています。総合職採用では、社員の能力が低かった場合、「会社の中に職がいろいろあるのだから、ほかの部署に異動させて様子を見ればいい」という発想に向かいます。あくまでも人が先です。

現実には、中小企業では事実上解雇される社員が少なからず存在するわけですが、大企業においては、労働紛争を嫌う経営者の多くが、社員の解雇に消極姿勢を示しています。本来の欧米型のジョブ型雇用では、ジョブに人をつけるという前提があるので、「ジョブがなくなれば人を雇えなくなる」というルールが明確です。けれども、総合職を抱えている企業では、そのあたりのルールが不透明なままです。

仮に戦略の変更によって、ある部署の特定の職が不要になっても、社員を解雇するという判断にはなかなか踏み切らないでしょう。結果的に、日本の大企業ではジョブ型雇用が骨抜きにされ、社員を解雇できない「日本版ジョブ型雇用」が浸透するのではないかと危惧するのです。日本版ジョブ型雇用が浸透していくと、おそらく労働市場の流動性は高まらず、生産性も向上しないので、給料アップは望めないということになります。

これまでの「1度に1社だけに勤める」という「20世紀的キャリア観」自体を根本的に改めなければなりません。たとえあなたが会社員であっても、1社に勤めながら同時に別キャリアを複数作る。そうして「パラレルキャリア」を築くことにより、複数の収入源を確保しなければ、ジリ貧となってしまう時代がもう来ているのです。

同じ仕事をしているかぎり、給料は据え置きに

そもそも、欧米型のジョブ型雇用が定着したとしても、自動的に給料が上がるわけではありません。まず、ジョブ型雇用に移行すると、日本型雇用のように年次で給料が上がることはなくなります。「在籍しているだけで自動的に給料が上がる」という期待は、日本の大企業に特有の考え方にすぎません。

しかも、ジョブ型は基本的にジョブごとの給料の相場がおおよそ決まっています。例えば、営業職の給料相場が500万〜600万円だった場合、同じ職で働き続ける限りは、同じ会社にいても別の会社に転職をしても、ほぼ同じ給料を受け取ることになります。これは、現在の日本で非正規労働を行なっている人が置かれている環境と似ています。非正規雇用では、同じ仕事をしている限り、時給は決まっています。これが正社員にも適用されると考えると、イメージしやすいと思います。

村上 臣『稼ぎ方2.0 「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』(SBクリエイティブ)
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だから、ある程度経験を積み、給料を増やしたいと考える人は、その上のポジションを目指す必要に迫られます。マネージャーやシニアポジションを目指して社内で昇進試験を受けるようなイメージです。試験に応募する場合は、外部の人材との比較対象となります。あくまでもジョブが先なので、会社としてはジョブに最適な人材を欲しがります。社内の人がポジションを取ってくれるに越したことはないですが、「一応社外からもいい人を探してみよう」という動機も働きます。

ポジションの募集は完全公募の形で行なわれます。社内外に募集をかけ、同じように面接を行なって、誰を採用するのかを決めるのです。要するに、社内の異動であっても新規の中途採用を行なっているようなものです。

つまり、ジョブ型雇用において給料を上げたいと思ったら、たえずリスキリングを行ない、社内外で転職を繰り返す必要があります。常に激しい労働市場での戦いを強いられるということです。

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