日本でも導入が進む「ジョブ型雇用」

2020年、日本経済団体連合会(経団連)が「ジョブ型雇用を組み込んだ働き方へシフトする必要性」を提言したことにより、「ジョブ型雇用」への注目が集まるようになりました。

ジョブ型雇用とは、企業があらかじめ職務内容や責任の範囲を明示した上で、その職務やポストに対して必要な人材を採用する制度のこと。ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて採用や人事評価が行なわれることになります。

これまで日本では、業務内容を限定しないまま「総合職」として新卒一括採用を行ない、職種や仕事内容をローテーションさせながら適性を見極める「メンバーシップ型雇用」が主流となっていましたが、欧米型のジョブ型雇用に転換すべきとする考え方が唱えられるようになってきたのです。日本では、ここ数年、大手企業を中心にジョブ型雇用を導入する動きが少しずつ進んでいます。

例えば、富士通は2020年度から国内の幹部社員約1万5000人を対象に、ジョブ型雇用を導入。2022年度からは対象を一般社員にも拡大しています。KDDIも「KDDI版ジョブ型人事制度」という独自の制度を導入し、「人事」などの大きなくくりでジョブを分ける取り組みを始めました。ほかにも、日立製作所、資生堂、SOMPOホールディングスなどの大手企業が、続々とジョブ型雇用を導入しています。

「理不尽な転勤」からの解放

国もジョブ型雇用への転換に動き出しており、岸田首相は「年功序列的な職能給をジョブ型の職務給中心に見直す」と発言。具体的には、日本企業に対してジョブ型雇用への移行を促す指針を2023年春までに官民で策定することを明らかにしています。

これに関連して、岸田首相は5年間で1兆円のリスキリング(職業能力の再開発、再教育支援)を行なうことも表明しています。ジョブ型雇用に移行した場合、キャリアアップには学び直しが必要不可欠となることを踏まえた政策といえます。特に日本では、デジタルスキルが不足しているので、国の後押しによって支援していこうというわけです。

さらに細かいところでは、大企業でも転勤を前提とした異動を行なうのではなく、採用時に勤務地を明示する動きが少しずつ見られるようになっています。厚生労働省は異動の可能性がある範囲を、企業が労働者に事前に明示することを義務づける法制化(労働条件通知書の改定)を検討しており、現在、法制化に向けての作業が進められています。

これまでは、特に大企業では、会社から転勤を言い渡されたら全国どこにでも引っ越さなければなりませんでした。転勤は会社への忠誠心を図る手段として利用されてきたわけですが、これからは事前に合意した勤務地でのみ働くことになります。これもジョブ型雇用を意識した制度変更の一つといえます。