さじ加減の利いた寄り添い方は人間にしかできない

産業医のコメント

実際にこのような質問をした人が労基署や弁護士に行くのか、医療機関を受診するのか、最終的には個人の判断で自由だと思います。

しかし、産業医として10年以上毎年1000人以上の働く人たちと面談をしてきた経験から言わせていただくと、労基署や弁護士の利用を最初から促すことは良い結果に向かうとは思えません。会社と争って最終的に勝てたとしても、満足感や達成感は得られないでしょう。かといって、産業医の私は相談者に泣き寝入りを勧めたり、会社の立場を守るわけでもありません。

ほとんどの働く人は、会社にストレスがあるとき、退職すれば治ります。しかし、自分で選んだ会社なのだから、もう少し、ストレスに上手に対処したり、気持ちの折り合いをつけたりして頑張ってみると、うまく行くこともあります。その上手なさじ加減の利いた寄り添い方は、やはりある程度熟練した人間のたくみの技であり、AIにはまだ難しいものと感じます。

聴診器を首から下げ、白衣を着ている医師
写真=iStock.com/Nature
※写真はイメージです

取っ掛かりとして使うには便利だが…

現時点では、不安やストレスがある時、相談可能な信頼できる人がいるならば、AIカウンセリングは第1選択ではないと思います。しかし、相談できる人がいなかったり、取っ掛かりとしての利便性を持って利用するには使い勝手はいいと思います。しかし、その回答の真偽については常に自分で検証しながら聞く必要があると感じました。

いずれAIがさじ加減や人間の匠の技を身につけるのかもしれません。しかし、あと10~20年は大丈夫そうというのが現在の実感です。産業医の私の職がAIに奪われるかもしれない不安とストレスは、今のところはないと感じて安心して眠れそうです。

(注)ChatGPTの回答は途中で切れる場合があります。その原因は、生成できるテキスト数などの応答の制限、質問文脈が不十分、まだChatGPT自身が不完全だから、などが理由です。

【関連記事】
三流は情報収集に使い、二流は自分がラクをするために使う…一流の人の「スゴいChatGPTの使い方」
これだけはChatGPTに聞いてはいけない…コンピューターサイエンスの研究者が考える生成AIの正しい使い方
今年の五月病はいつもと少し違う…産業医が注意が必要と指摘する「メンタル不調」3つの兆候
ChatGPTに神戸大MBAの宿題を解かせた結果…大学教授が「これでは合格点は出せない」と結論づけた理由
「悲しみの深さ」は関係ない…大切な人を失った後に「うつになる人」と「ならない人」のたったひとつの違い