OpenAI社が開発したChatGPTを使う上での注意点はなにか。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「ChatGPTの回答は確率的に高い単語を組み合わせて返答しているだけで、それが正しいと考えてはいけない。自分の知らないことを調べるのに使用するのは避けるべきだ」という――。(インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)
国立情報学研究所の佐藤一郎教授
撮影=プレジデントオンライン編集部

ChatGPTは本当に業務効率化につながるのか

ChatGPTが大きな話題になり、連日メディアをにぎわせています。

多くの職場では「わが社もいち早くChatGPTを取り入れて、業務効率化を図ろう」という掛け声が飛んでいるかもしれません。

確かにChatGPTを使えば、文書作成は楽になるでしょう。メールも、送り先と要件を箇条書きにして指示を出せば、ChatGPTがメールの文書を生成し、送信するところまで自動でやってくれるようになる。

少し先の未来では、「まだメールを人力で書いているの?」という会話が生まれるかもしれません。会議の議事録や業務日誌はもちろん、ゆくゆくはプレゼンテーション用のスライドなども自動生成されるようになるでしょう。

ChatGPTを開発したOpenAI社にはマイクロソフト社が多額の出資をしています。将来的にはおそらくMicrosoft OfficeがChatGPTを実装し、Outlookはもちろん、WordやExcelでもChatGPTが使えるようになり、メールも文書も表計算も、ChatGPTが生成したものに人間が手を入れる、というのが当たり前の業務スタイルになっていくのだろうと思います。

ここだけを見れば、確かに大変便利なツールです。しかし必ずしも「業務効率化につながる」とは言えません。

大量に増える文書は誰が読むのか

言うまでもありませんが、企業の業務は文書生成に限りません。議事録やプレゼン資料の作成を指示される立場の社員にとっては業務の手助けになりますが、その分、文書や資料の量は今よりも大幅に増えることになります。

「無駄な文書」とまでいうと言い過ぎかもしれませんが、少なくとも「とりあえず作っておくか」というアリバイ的な文書は増えるでしょう。

なにせ、一から自分で作る必要がなくなるのです。しかし部下に指示を出す側は、そうやって「自動で」上がってくる大量の資料や文書に目を通さなければならなくなるのです。

もちろん、ChatGPTは文章の要約もしてくれますので、企業の責任ある立場にいる方は「部下から上がってきた文書をChatGPTで要約してから目を通す」こともできるでしょう。しかし、ChatGPTは「その文書が業務において重要なものであるかどうか」を判断することはできません。