受診をやめたら15年で1000万円超が入らなくなる
筆者との面談後、妹は休日を利用して兄家族の実家を訪れ、障害年金の話をしました。しかし兄からは「何をやってももう遅い。病院を受診するのは面倒くさい。もう放っておいてほしい」といった返事が返ってきました。
また、両親も「障害年金を受給するのは難しいのではないか?」といった反応を示し、なかなか思うようにいきません。
それでも妹は諦めませんでした。その後も何度も実家を訪れて兄と両親を説得。時には何時間も議論をすることもあったそうです。妹の熱意が伝わったのか、兄はしぶしぶ病院を受診することを了承。妹が事前に調べていた精神科を受診することになりました。
初診の際には妹も同席し、医師に今までの経緯を説明。すると医師からは「うつ病の他に発達障害の疑いもありそうですね」との診察結果が言い渡されました。医師からのアドバイスで、通院は最初のうちは2週間に1回、しばらく様子を見て大丈夫そうなら月に1回とすることにし、治療は服薬とカウンセリングを行うことになりました。
「無事、病院を受診することができた」
妹がほっと胸をなで下ろしていたのも束の間。思いがけない出来事が起こってしまったのです。それは3回目の通院の時。兄は病院に連絡することもなく、受診を急遽取りやめてしまったのです。通院当日は雨が降っており、どうしても気分が上向かず、外出が面倒になってしまって通院したくなかったとのこと。さらに悪いことに、兄も両親も予約の取り直しをしていないというのです。これでは、月7万円(年84万円)の障害年金を受給できるのに、できなくなってしまうかもしれません。先ほど計算したように、15年で1000万円超の“収入”がフイになってしまうのです。
これに対して妹は腹立たしさと情けなさの気持ちがあふれ出てしまい「もうどうでもいい」と投げやりな気分になりました。しかし、すぐさま「こんなことで諦めてしまってはいけない」と気持ちを切り替え、妹が病院に連絡を入れて謝罪するとともに予約を取り直し、有給休暇を取得して兄を病院まで連れて行くことにしました。その後、妹は休日を利用して実家を定期的に訪れるようにしました。
妹の情熱が母親にも伝わったためか、母親にも変化が出てきました。兄の服薬に関しては、当初は兄本人に任せていましたが、1週間に半分程度は飲み忘れてしまっていたそうです。それを知った妹は母親に手伝ってもらうようお願いし、母親が薬と水を用意するようになりました。
兄に通院の意識を持ち続けてもらえるよう、母親にお願いをして次の通院日をカレンダーに大きく書いてもらい、さらに通院日を書いたメモ用紙をリビングの壁に貼ってもらうようにしました。通院日が雨の日は、お金がかかってしまいますが、タクシーで病院まで行くうようにしました。母親の協力もあり、兄は何とか通院を続けることができました。
そして初診から1年4カ月が過ぎた頃。妹と筆者は障害年金の請求に向けて、まずは二つの書類を準備していくことにしました。
一つ目の書類は医師に見てもらうための参考資料です。参考資料には、兄の日常生活の困難さを記載していきます。例えば、自分で食事の用意ができるかどうか、食欲はあるか、入浴はどのくらいの頻度か、自室の掃除はできるか、金銭管理はできるか、社会との接点はどのくらいあるのか、契約能力はどのくらいあるのかといったようなことを具体的に記載していきます。この参考資料を医師に見てもらい、可能な範囲でその内容に沿った診断書を作成してもらえるようにします。
二つ目の書類は病歴・就労状況等申立書です。この書類は本人または代理人が作成します。兄には発達障害があるとのことなので、病歴・就労状況等申立書は生まれた時から現在までの日常生活の様子や当時の学校での様子を記載していくルールとなっています。