44歳の既婚女性には2歳上の兄がいる。兄は10年前までは働いていたが、現在は無気力状態で70代後半の両親の住む実家に身を寄せ、閉じこもっている。昼間もカーテンを閉め切り、部屋はカビの臭いが充満、兄の体からは“異臭”がするという。何の手も打たない両親に代わり、妹が粘り強く実践したこととは何か――。
夜、もぬけの殻のベッド
写真=iStock.com/onsuda
※写真はイメージです

10年前に無気力状態になり働くのをやめた46歳兄

ひきこもり状態が10年続いている兄(46)について相談したい。そのようなことで筆者の元に訪れた妹(44)から事情を伺うことになりました。

家族構成
兄(46)無職 ひきこもり
父(78)年金生活者
母(75)年金生活者
妹(44)既婚。兄、家族とは別居。都内在住。
兄と両親は同居で長野県在住。

収入
父 公的年金 月額 約16万円
母 公的年金 月額 約5万円

支出
基本生活費など 月額 約19万円

財産
両親の預貯金 合計3000万円
兄の預貯金 0円
自宅土地 500万円

妹は胸の内にある不安を口にしました。

「兄は36歳で仕事を辞めてからひきこもるようになり、もうすぐ10年がたちます。46歳になった現在も仕事をする様子はなく、一日のほとんどを自室の中で過ごしています。兄も両親(共に70代)も将来を不安視している様子はなく、何も行動を起こそうとしないのです」

「なるほど。それは心配ですね。お兄さまの今までの状況について、もう少し伺ってもよろしいでしょうか」

妹は、ひきこもりの兄について語り出しました。あらましは以下のようなものです。

兄は小さい頃、自分の思い通りにいかないと大声を出して怒りをあらわにし、自分の思い通りにさせるような子だったそうです。そのため、幼稚園や小学校では級友とのけんかが絶えませんでした。

お調子者の面もあり、小学校低学年の時、教室の窓から校庭に向かって放尿をしてしまい先生と両親に怒られたこともありました。本人に理由を問い詰めると「窓からおしっこをしたら気持ちいいだろうし、みんなも面白がると思ったから」と答えたそうです。

また、忘れ物も多く、学校の勉強は苦手。興味関心のないことは、たとえ大事な約束でも頭の中に入っていかず、約束を守らないこともしょっちゅうありました。

小さい頃は「少し変わった子」というキャラクターで何とか過ごしてこられましたが、年齢を重ねるにつれ、徐々にそれが通用しなくなっていきました。

社会人となった兄は仕事をしていた時期もありました。しかし、職場で上司から指示命令を受けてもその内容が頭の中に入っていかなかったり、優先順位付けができずに先延ばしにしてしまったりしてしまい、いつも叱責を受けていたそうです。そのため、どの職場でも仕事が長続きしませんでした。最終的には派遣会社に登録して仕事をするようになりましたが、2カ月程度の短期の仕事しかできなくなってしまいました。

徐々に自信を失くしていった兄が36歳になった頃。「同級生は出世したり家庭を持ったりして幸せな人生を歩んでいる。なんで俺にはそれができないんだ」と絶望してしまい、その後は仕事をすることもなく、自室にひきこもる生活になってしまったそうです。

現在、兄は家の外に出ることもなくなり、無気力状態になっているとのこと。両親と会話することもほとんどなく、自室にこもってばかり。自室は昼間でも厚手のカーテンを閉め、窓を開けて換気することもしないので、部屋はカビのような臭いが充満しているそうです。

布団も敷きっぱなしなので、汗や皮脂で布団にカビが生えていたこともありました。入浴もほとんどしておらず、体からは食べ物が腐ったようなツンと酸っぱい臭いがしています。臭いがあまりにもひどくなると、母親が何度も入浴するよう促し、兄はしぶしぶシャワーだけを浴びるとのこと。

身だしなみに気を使うこともなくなり、髪もひげも伸び放題。見かねた母親が床屋へ行くように促しても、兄は髪を切りに外出することはありません。気が向いた時にハサミを手にして自分の髪を切ることがあるようですが、切った後は段々畑のような頭になってしまうのでした。

当初は違和感を持っていた両親もだんだんと慣れてきてしまい、いつしかそのような生活が当たり前になってしまったのでしょう。妹は「両親が何か行動を起こすといった考えも浮かばないくらい感覚がまひしてしまったのではないか?」と感じるようになったそうです。