大切なのは「自分の心と直感に従う勇気」

【内田】スティーブ・ジョブズの言葉ですが、若者にとって最も大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだと思うんです。誰にでも心と直感はあります。「こんなことをやっていていいのかな」とか「こっちのほうに行きたいな」とか思うことはある。でも、今の若い人たちはその直感と自らの気持ちに従わない。「そんなこと誰もやっていないよ」と周りに反対されたら、それで簡単に挫けてしまう。

米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏=2010年1月27日、カリフォルニア州サンフランシスコ
米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏=2010年1月27日、カリフォルニア州サンフランシスコ(写真=AFP/時事通信フォト)

周りの反対を撥ね除けて心と直感に従うことができる若者が本当に少ない。そもそも日本の学校では子どもたちに「勇気を持て」と教えることはありませんからね。そういう教育を20年もの間受けてきた子どもたちに、いきなり大学で「勇気を持て」と言っても無理です。

だからその前段として、「親切にする」ということが必要だと僕は思っています。親切にしてあげて、この人にだったら自分が本当に思っていることを言っても処罰されない、という保険をかけてあげる。周囲の人から明らかに反対されるようなことも、この人になら言っても大丈夫なんじゃないか……そんな寛容さを担保してあげる。

まず親切にして、ロールモデルを見せる

また、サコ先生のように、他の人とまったく違う逸脱した人生を送っていながら陽気にゲラゲラ笑っているという大人のロールモデルを見せてあげること。「あれぐらい世間を舐めていても平気なんだ」「陽気に暮らしていけるんだ」と(笑)、現物の見本を見せることはすごく大事ですよ。

子どもに言葉で「勇気を持て」と発破をかけても、それで「はい、勇気を持ちます」とはなかなかなりません。だったらまず親切にする。お気楽に生きている大人でも平気で楽しく仕事をしている様子を見せてあげる。鎧兜に身を固めている子どもたちの武装解除をしてやるには、この二つが大事な気がします。

【稲賀】まったく同感です。国際文化学部では、「海外短期フィールドワーク」などを通して、学生を早い時期に海外に出す予定です。これはある意味大きな冒険ですが、とても必要なことで、内田さんが今おっしゃった「親切」のひとつの形だといえます。

18歳まで日本の教育を受けてきた子どもの大多数は、日本社会しか知らないし、この社会しかないと思っています。でも「外」の世界ではここでの常識は通用しない。「日本の常識は世界の非常識」。その落差を危険のない範囲で見せてあげることは、若者の人生にとって非常に大切です。そしてそうした経験は、若ければ若いほど効果が高い。