正しい方向を見極める「直感」を鍛える

【内田】コロナ禍によって、グローバル資本主義のシステムは大きく変動しました。コミュニケーションのあり方も、国のあり方さえ変わりつつあります。さらに人口減少、気候変動など、さまざまな地球規模の問題も起きている。あまりに変数が多すぎてとてもじゃないけど先行きは予測不能です。

社会がこれからどうなるのか、過去の経験に基づいて予測することは、きわめて困難です。そうした予測不能の社会に若い人たちを送り出していかなくてはならない。彼らをどんなふうに支援し、どんな能力を身につけてもらえば生き延びていけるようになるのか。それが教育者の喫緊の課題だと思います。

それはやはり「直感を鍛える」ことだと思います。僕らが未来の社会を正確には予測できない以上、彼ら自身に行き先を選んでもらうしかない。だからこそ、正しい方向を見極める力を養う必要がある。

スキー板の「正しい位置」はどこか

「正しい方向」ってあるんですよ。僕のスキーの先生が以前とてもおもしろいことを言っていました。「スキー板の『正しい位置』に乗るのが大切です」と先生が言われたので、僕はつい「先生、正しい位置ってどこですか?」と訊いてしまったんですけれど、その時に先生が「いつでも正しい位置に戻れる位置です」と言われた。「なるほど」と思いました。

スキーをする人たち
写真=iStock.com/JulPo
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「正しい位置」というのは固定的な点ではない。その通りです。スキーでは気温や斜度や日照角度などによって雪面の状態は刻々と変わります。こういうラインで滑ると決めていても、必ず予想外の変数が入り込んできて、当初のプランを変えて対応せざるを得ない。ですから「スキー板の上の正しい位置」とは、「今ある選択肢の中で最も自由度の高いところ、最も次の選択肢の多いところ」だということになります。

そういうポジションに立っていれば、連続的に変化する状況に対応して、そのつどの「正しい位置」を選択することができる。つまり、「正しい位置」というのは、事前にはわからないけれど、事後的に、難局を切り抜けた後になって、「あの時は正しい位置にいた」とわかるというものなんですね。