なぜそうなるのかというと、日曜大工で建具を取り付けるときや修理をするとき、親は極力、子どもたちに手伝わせるようにしているからです。そういう家族としての共通体験をイギリス人は非常に大切にします。
子どもと接する期間は18年だけ。そう思うからこそ、イギリスの父親たちは夜の食卓に間に合うよう大急ぎで家へ帰ります。18歳で家を出るかどうかはともかく、子どもが子ども時代を過ごすのはほんの短い期間にすぎません。その間に濃密な共通体験を積み重ねていなければ、家族の関係は希薄化します。
いくらか年収が高くても、ちょっとばかり出世をしても、家族が親密でなければ幸せとはいえません。子どもとの時間や妻との時間は、あとになっても取り戻せると高をくくっている人もいるでしょう。残念ながらそうではありません。
日本の現実を見ると、首都圏ではホワイトカラーの父親が夕食に間に合うよう帰宅するのは困難です。会社の働き方が一朝一夕で変わらないとしたら、建築などの自営業や農業といった、働く時間をある程度自分で決められる職種を選ぼうとする若者が増えるかもしれません。それは健全なことだと思います。
(構成=面澤淳市 撮影=的野弘路、平地勲 写真提供=井形慶子事務所)