前年比2割減、3割減は当たり前。「年収崩壊」とまでいわれるこの時代、幸せに生きるにはどうすればいいか。お手本は成熟社会の代名詞イギリスにあった。
イギリスに限らず、ヨーロッパの人たちは歴史を刻んだ古い建物、古い住宅に価値を見出します。その点、日本人には“新築信仰”があるので、中古住宅は売り物にならないといわれてきました。
ところが最近、日本でも中古の戸建て住宅やマンションを安値で購入し、リフォームして住みたいという若い人が増えています。いま「新築、新築」と騒いでいるのは、住宅販売を景気浮揚につなげたい国と、関連業界だけではないでしょうか。その証拠に、都内で人気のあるエリアでさえ新築マンションには売れ残りが出ています。
かつて日本では広さや新しさが住宅の価値でした。バブル絶頂期には、ホームパーティを開くことができて大型犬も飼える、アメリカの郊外住宅のような広い家が最高だとされていました。しかし住宅数が総世帯数を上回る家余りの時代に入り、しかも少子高齢化が進む中では、ロケーションこそが大事だという考えが広がっています。
ロケーションがよいとは、いざというときすぐに借り手がつくような立地条件にあるということです。いま好まれているのは、昔ながらの商店街があり、しゃれた飲食店が点在し、美術館などの文化施設にもほど近い街。たとえば麻布十番や神楽坂、吉祥寺、二子玉川、下北沢などの街です。同じ値段なら、新築物件を郊外のニュータウンに求めるよりも、ロケーションのよい場所の古い家を買いたいという人が増えているのです。
イギリスでは古い家を購入してリフォームを重ね、高値で転売したり、人に貸したりすることがふつうに行われています。その考え方と一脈通じるのが、このところ東京の杉並区や武蔵野市、三鷹市あたりで目立ち始めた、古い戸建て住宅を改装したセンスのいいお店です。
たとえば吉祥寺に古い大きな家を構えている高齢のご婦人が、若いカップルに家の半分を貸し出しました。家主さんは、ほかに誰が住むでもない家をリフォームするのはもったいないし、そもそも広すぎると考えていました。店子のカップルは、借りた半分をリフォームして雑貨屋さんを始め、たいへんな人気店にしてしまいました。一般の住宅でも同じようなケースはちらほら出てきています。
古い民家を安く借り、快適な住まいにリフォームして暮らしたり、商売を始めたりする。そういうイギリス風の発想はますます広まっていくと思います。