前年比2割減、3割減は当たり前。「年収崩壊」とまでいわれるこの時代、幸せに生きるにはどうすればいいか。お手本は成熟社会の代名詞イギリスにあった。
とある外国の友人に耳の痛いことをいわれました。いわく、日本の高等教育機関は集団詐欺師を養成しているみたいだ。
大学卒のホワイトカラー、たとえば銀行や証券会社の営業マンは、お客から金を巻き上げるテクニックばかりを磨いているじゃないか、というのです。
彼らを教育しているのは大学というよりは会社ですが、みんなと分かち合うのではなく、自分だけが得をしようという発想が根底にあることは否めません。それらの会社の従業員は年収が高く、社会的にも地位が高いとされています。日本の大学生の多くはそこに入社しようと血眼になっているのですから、私には反論する言葉が見つかりませんでした。
では、イギリスの一流大学の卒業生はどんな職業を選んでいるのでしょうか。
オックスフォード大学を卒業し、日本で翻訳兼通訳の仕事をしている友人がいました。とくに高度な仕事をしているわけではなく、収入もそこそこ。立派な学歴に比べるといかにももったいないと思い、特別な事情があるのかと尋ねると「ロンドンにはオックス・ブリッジ(オックスフォード、ケンブリッジ両大学)の卒業生なんてごまんといる。僕の同級生たちも特別扱いされるわけではなく、ふつうに教師になったり出版社に勤めたりして暮らしているよ」というのです。
そこでオックス・ブリッジ卒業生の就職先を調べてみると、彼らは高い年収や職業としての見栄えのよさにはさして魅力を感じないらしく、小学校の先生になったり、発展途上国の英語教師になったりする人が多いのです。判断の基準は、収入の多寡よりも社会に貢献できるか否かというところにあるようでした。
エリートの社会貢献ということでは、最近もこういうことがありました。ロンドン郊外の刑務所で料理長をつとめる有名シェフが、刑務所の中に囚人や出所者が働く高級レストランを開いたのです。「囚人たちは出所しても就職先がないからまた罪を犯してしまう。職業訓練と就職の受け皿としてレストランをつくりたい」。彼はイギリス中のお金持ちに呼びかけて出資を募り、空き倉庫を改装して本当にレストランを開業しました。
この人の発想や行動力には心底感心させられました。本業でも受賞歴がある立派なシェフなのです。その彼が刑務所の料理長になり、さらに囚人の社会復帰のための施設をつくる。就職先はブランド企業でないと嫌だ、などという日本の大学生には、ちょっと真似できないことだと思うのです。