前年比2割減、3割減は当たり前。「年収崩壊」とまでいわれるこの時代、幸せに生きるにはどうすればいいか。お手本は成熟社会の代名詞イギリスにあった。
井形慶子
長崎県生まれ。28歳で出版社を設立し、英国生活情報誌「ミスター・パートナー」を創刊、同誌編集長。90回以上の渡英経験を生かした著書多数。http://www.mrpartner.co.jp

イギリス人は一般に質素な暮らしを楽しむ術を知っています。彼らにとって派手に消費することは美徳ではありません。いかにもイギリス人らしいと思うのは、クレジットカードの使いすぎが問題になり、自分も気をつけなければいけないとなったら、カードにハサミを入れて物理的に使えなくしてしまうことです。

消費者ばかりか、小売店も「買いすぎ」を防ごうとしています。テスコやセインズベリーなどの大手スーパーは、あらかじめ2000円とか3000円とかその日の予算を設定しておけば、買い物の途中で総額が予算を超えないよう警告してくれるシステムを導入しています。

その一方で、アッパーミドルクラスのイギリス人は、由緒のある値打ち品にはお金を惜しみません。彼らが大切にするのは、品物の背後にある歴史やストーリーです。そこに共感するからこそ、お金を払い、ストーリーに参加するのです。私もイギリス人の真似をしてみました。私の東京の事務所には、ヨークシャーのリッポン大聖堂の長椅子を再生したテーブルが二脚あります。

リッポン大聖堂は12世紀の創建で、『不思議の国のアリス』のモデルになったウサギの浮き彫りがあることでも有名ですが、そこで使っていた長椅子が老朽化したので廃棄しようとなったときに、地元の職人たちがテーブルに再生して販売すると申し出たのです。販売代金の半分は自分たちの工賃、半分は教会の維持費として寄付するということでした。

イギリスのお金持ちが買う値打ち品とは、こういうものなのです。特定のブランドだから価値があるのではなく、過去に遡るストーリーや社会性がそこに付随している。それをずっと使っていく、ということに値打ちを感じるのです。ブランドに価値を認めるというときも、背景や歴史性に共感するから愛好するのです。それがないのに、ブランド名だけにお金を使うということはありえません。実は日本の消費者もそのことには気づいてきていると思います。

たとえば大正時代の古い家具、あるいはお寺を建て替えるときの廃材でつくった木工品。次世代にも残すことができるそういった値打ち品がほしいという人は確実に増えています。もちろん高価でもかまわない。むしろ販売する側がその意識に追いついていないのです。

(構成=面澤淳市 撮影=的野弘路、平地勲 写真提供=井形慶子事務所)
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