前年比2割減、3割減は当たり前。「年収崩壊」とまでいわれるこの時代、幸せに生きるにはどうすればいいか。お手本は成熟社会の代名詞イギリスにあった。
井形慶子
長崎県生まれ。28歳で出版社を設立し、英国生活情報誌「ミスター・パートナー」を創刊、同誌編集長。90回以上の渡英経験を生かした著書多数。http://www.mrpartner.co.jp

日本人は医者にかかりすぎです。「健康保険を負担している以上、医者に診てもらわなければ損をする」とでも考えているのでしょうか。ちょっとした病気が流行すれば一斉にマスクをかけ、風邪っぽいといっては会社を半日休んで病院に行く。イギリス人はそんな私たちを見て、「信じられない」と目を丸くします。

イギリスでは、風邪は病気のうちに入りません。38度以上の発熱があったときだけ、アスピリンをもらって安静にしています。考えてみれば、病院へ行っても風邪薬を処方されるだけですから同じです。違いは医者に診断をしてもらい、安心するかどうかということです。そもそも病院に行ったからといって、得をするわけはないのです。

過剰なほど医者や病院に依存するのは、ふだんの健康管理ができていないからだとイギリス人は考えます。日常的に体を動かすことで健康を保ち、軽い風邪なんかは病院に行くまでもなく治してしまう。これがイギリス人の健康に対する考え方です。

彼らの思想は徹底しています。イギリスはウオーキング大国といわれますが、高齢になるとイブニングドレスやクルマなどにお金をかける代わりに、ゴアテックスの本格的なレインコートや1万円もするハンターの長靴を当たり前のようにととのえます。雨が降ろうと雪が降ろうと、彼らは完全装備で散歩に出かけます。装備にはそれなりのお金はかかりますが、あとは自分の足で歩きまわるだけですから、レジャー費はほとんどかからず、結局は安くつくのです。

歩くだけではありません。イギリスには「ワイルド・スイム」という伝統まであります。海や川や湖、水がきれいなところならどこにでも水着で入っていって泳ぐのです。愛好者の団体には60代以上の高齢者がたくさん加入しています。ロンドン北部にも、四季を通して泳ぐことができる大きな池があります。私自身、白鳥が浮かんでいる水辺で泳ぐことがありますが、真夏の一時期をのぞけばほとんどいつも寒中水泳の状態です。

冬場に無理をして泳げば心臓発作を引き起こしかねないとして、ロンドン市議会が冬季の遊泳を条例で禁止したことがありますが、高齢の愛好者を中心に猛烈な反対運動が起きて、結局は元通りいつでも泳げるようになりました。

一方、いまの日本人の生活習慣はイギリスとはかけ離れています。たとえば75歳の私の父は少しでも調子が悪いと病院に行きますが、どちらが健康的か、よく考えなければいけないと思うのです。

(構成=面澤淳市 撮影=的野弘路、平地勲 写真提供=井形慶子事務所)
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