新婚生活

新婚生活が始まったものの、気づけば玄関やトイレ、浴室以外の部屋に照明がなかった。

不便に感じた狩野さんが妻に、「なんで買わないの?」と訊ねると、「カーテンがないから、外から見えちゃう」。

「それならそれでさっさとカーテンを買えばいいものを、何かこだわりがあるらしく、妻はなかなかカーテンを買ってきません。ちなみに、2階一番奥の角部屋だったので、私たちの部屋をのぞける3階以上の建物は、周囲には一軒もありませんでした」

不便さに耐えきれなかった狩野さんは、暫定措置として実家から照明を借りてきて、アパートの照明を買うまでしのいだ。

ところが、妻と同居してから狩野さんが最も驚き、あきれ果てたのは、妻がほとんど布団で寝ないことだった。

「習慣というよりすでに習性の域だと思いますが、妻は朝までコタツで寝ます。私がだらしないのは女性に対してだけなので、こんな生活をする人間がいるなんて知りませんでした。彼女に言わせれば、『毎日疲れているからつい寝てしまう』とのことなのですが、座布団一枚敷いただけで、着替えもせずに朝までコタツで寝ていれば、疲れなんか取れるはずがありません。私にはそのだらしなさが不快でたまりませんでした」

炬燵の中
写真=iStock.com/ahirao_photo
※写真はイメージです

ある晩、コタツで寝る妻が狩野さんの足に絡みついてきたときに、「布団で寝ろよ」と狩野さんが言ったところ、急にむくりと起き上がり、「毎日監視されてるみたい」と吐き捨てて寝室へ行った。

「(妻を)不快に思っていたのは間違いないので、私の言葉に険があったとは思います。しかし、妻を監視するなんてそんな発想すら私にはないですが……。私が妻に関して知らなかった面を毎日のように見せつけられたのと同様、私も妻にいろいろ見せていたのでしょうね……」

さらに、こんなこともあった。

同居開始数カ月で妻が、「楽しくない」と言ったのだ。読書が好きで、リビングで本に目を落としていた狩野さんは、「結婚なんてこんなもんじゃないの? よそがどんなふうなのか聞いてきてよ」とだけ言って、続きに目を落とした。

「妻が求めていた楽しさがどんなだったのかはいまだに分かりませんが、当然私も楽しいわけではありませんでした。今考えれば結婚に楽しさなんて求めていなかったんだと思います。たまのデートなら女性を飽きさせない自信はありますが、24時間365日はしゃいでいる人間なんているわけがありません」

狩野さんは結婚後、妻以外の女性とは一切接触しなくなっていた。それまでの行動を思えば驚くべきことだった。風俗へ行ったことも、行きたいと思ったことも一度もなかった。

コミュニケーション不足夫婦

結婚して半年が過ぎた頃、小学校教師である妻は、学校行事のため数日不在に。妻が帰ってくる日、狩野さんは「疲れてるだろうな」と思い、ベッドを整え、風呂の準備をして待っていた。

すると20時ごろ、妻が帰宅。

「じゃ、ご飯を食べに行こうか」と狩野さんが言うと、「あ、食べてきちゃった」と妻。事前に連絡なしの行動にカチンと来た狩野さんは、「お前はそういうヤツだよ」と言い捨ててコンビニへ。

弁当を買い、狩野さんが1人で食べていると、「いい気にならないでよね」と妻が言い捨てて浴室へ行った。

のちに、妻が夕食を取ってきたのは実家と知った。妻の実家と自宅は、妻が勤める小学校から見て反対方向。学校には遅くとも18時前には着いたはずで、学校からでも実家からでも、連絡をする時間は十分あった。

当時の小学校は、土曜日も午前中だけ授業が行われた。狩野さんの勤め先は土曜日は休みだったため、いつも狩野さん一人、家で昼食を摂っていた。だが、その日は珍しく妻が朝、「今日はお昼を一緒に食べようね」と言って出かけて行ったので待っていた。

ところが、妻が帰って来たのは16時頃。さすがに妻は「ごめんね」と言ったが、この時も電話一本よこさなかった。

さらに、妻の勤める小学校の運動会の振替休日。「せっかくの平日休みだからどこか行こうよ」と妻に言われ、狩野さんは休みを取った。

その当日。いくら待っても妻は起きてこない。昼まで待ったが、しびれが切れた狩野さんは、午後から仕事に行こうとスーツに着替える。するとようやく妻が起きてきて、「あれ? 仕事に行くの? じゃあ、私は映画でも見に行こうかな」と言う。

「『おいおい、待ってくれよ』と思いました。私は仕事が忙しい時だったのに、ムリに休暇を取ったんです。疲れていたのだとは思いますが、それにしても夫に対する気遣いはないのでしょうか……?」

狩野さん夫婦は、どうしてこうもギクシャクするのだろうか。

狩野さんはこの後、何がきっかけで妻と離婚しようと思ったのだろうか。そして、いつ、どのようにして、狩野家にタブーが生まれたのだろうか。(以下、後編へ続く)

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