スイス公共放送とBBCの存在意義
スイスには4つの言語グループがある。ドイツ語、フランス語、ロマンス語、イタリア語。たとえば、ドイツ語グループはドイツの放送やメディアを利用する。人口が多いのでそれだけお金がかかったコンテンツを提供するからだ。他の言語グループも同じことをする。
したがって、スイス人なのに、ドイツ、フランス、イタリアの情報にばかり接して、自国の情報に接することが少ないという現象が起こる。スイスは頻繁に国民投票を行う国である。自分の国のことをよく知らないのでは政治参加できない。
4つの言語グループに対しスイスについての情報を与え、かつスイス人としての意識をもたせる公共放送が必要である。事実、2018年3月に公共放送の改廃を国民投票にかけたが、これまで述べた理由を基に71.6%のスイス国民は存続を選んだ。
実はイギリスも多言語国家で、イングランド、スコットランドは英語を使用するが、北アイルランドではゲール語、ウェールズはウェールズ語を使用する。BBCはこれらの4つの王国に対する放送サービスを充実させている。BBCはそれを公共放送たるゆえんの一つに挙げている。
世界には多言語、多方言国家が多い。これらの国は公共放送を必要としているといえる。
公共放送の要件は「民放ではなし得ない役割」
では、日本のNHKはどうか。まったく、このような公共性はないといえる。
法学者の近江幸治は「NHK受信料契約の締結強制と『公共放送」概念」(判例時報 No.2377)のなかで、このようにいっている。
「公共放送」を定義することは至難であり、「公共放送」であるために是非とも必要な要件は何かという問いに対しては、おそらく、それが何でないかという消極的な答えしかなしえない。つまり、民放事業には十分果たしえない役割が公共放送には期待されているという答えである」(強調部近江)という。結局において、「民放ではなし得ない役割」を担うということになろうが、しかし、「民放ではなし得ない」ことなどあり得るのだろうか。