完成した「NY蔵」でスタートした酒造り
NY蔵は、マンハッタンから車で2時間ほど北に向かったハイドパークという地にあります。
酒造りは、まだ麹作業が始まったばかりです。麹の試験製造は終え、本番用の麹を3月下旬に仕込み、この4月1日に仕上がったばかりです。これならいいだろうという質のものが、一発でできあがりました。
実際に酒を仕込み始めるのは、5月半ば以降になります。このまま順調に進めば、9月にはお披露目会ができるでしょう。
水はニューヨークの水を使います。米は将来的にはアメリカ南部のアーカンソー州で生産する山田錦を使いますが、当面は日本からアメリカに送ることになります。すでにアーカンソーで生産された山田錦については分析しており、かなりいいものになったと思っています。
とはいえ、質と生産量の安定についてはまだわからない部分があります。米の生産はまだ挑戦中です。
異国でのゼロからのスタート
空気も水も違う土地で日本酒を造るわけです。そのうえ蔵の設備も日本とは微妙に異なります。基本的には同じ概念の設備を入れているわけですが、配置が微妙に違うのです。
向こうの法令にしたがって、通路は非常に広く取らないといけません。ここに戸が1枚あるかないかとか、動線が10m長いといったちょっとした違いが、最終的には酒の品質に影響することが多いのです。造ってみないことには何ともわからない――という感じですね。
私自身は3月20日に日本を出立し、現地入りしました。そして現在直面している、最も大きな課題は、アメリカ人スタッフとの意思疎通です。
アメリカで就労ビザを取得するためには、現地の雇用創出に貢献することが必要です。そこで、6人のアメリカ人を現地採用することにしました。年齢は22歳から30代半ばまでとばらけていて、多様なバックグラウンドの、やる気に満ちたメンバーが集まってくれました。
求人に際しては、仕事内容など求人情報をウェブなどに出して、応募してきた人の中でフィーリングの合う人を選びました。なんとなくこの人が良さそうだなと、正直なところ、感覚で採用した面もあります。
そして全員、日本酒を造ることはもちろん、日本酒を飲んだ経験もあまりないようです。文字通りゼロから1つずつ覚えていってもらいます。