山間部の田舎の公務員試験でも合格者24人中23人が院卒
そこで競争率が一気に跳ね上がったのが、IT企業と並ぶ、“イケてる就職先”の公務員である。「鉄飯碗」(鉄でできた茶碗、転じて食いっぱぐれない仕事を意味する。日本風に言うならば親方日の丸)はいつの時代も人気とはいえ、競争率は例年以上に跳ね上がる。国家公務員試験の申込者数は212万人。前年から50万人以上も増えて、初めて200万人台を記録した。
「うちの息子はそんなに優秀じゃないので、一流企業への就職や国家公務員試験への合格は最初から期待していませんでした。ただ、悩ましいのは名門大学の卒業生たちが安全パイを狙って、就職先のターゲットを下げていることです。息子は就活イベントで、本来で出くわすはずのない名門大学の出身者に遭遇してびっくりしたと嘆いていました」(李さん)
一流大学の卒業生が就職の期待値を切り下げたことで、ところてん方式に人が押し出されていき、全体的に期待していたほどの良い仕事が見つからないという状況が広がっている。
期待値の切り下げはどう進んでいるのか。昨年、話題となったのが浙江省麗水市遂昌県の地方公務員試験だ。遂昌県は典型的な田舎で、山の間にへばりつくような小さな町なのだが、試験合格者24人ののうち23人は院卒、しかも上海交通大学や西安交通大学など名門校の出身者がずらり。「なぜ一流大学出身者がこんな田舎に⁈」とちょっとしたニュースとなった。
近年、中国の地方自治体は高度人材獲得政策を打ち出し、昇進優遇策や引っ越し費用補助金などのニンジンをぶらさげるようになった……とはいえ、就職難がなければありえなかった話だろう。
名門校卒業生がフードデリバリーの配送員に
実際、名門大学を卒業したからといっていい仕事が見つかるとは限らない。中国トップの名門大学である清華大学は「卒業生雇用品質報告」なる報告書を作成している。同報告書によると、2022年6月卒業生(院卒含む)8003人のうち、「職探し中」「今後は未定」との回答が83人。加えて「柔軟な雇用」との回答が811人ある。
柔軟な雇用とはアルバイトや屋台店主、専門スキルを生かしたフリーランスまでを含む、サラリーマンでも起業家でもない働き手すべてという幅広い概念である。めちゃくちゃ稼いでいるフリーランスも含まれているとはいえ、一般的には“イケてる就職先”とはみなされていない。また、最近では「あの名門校卒業生がフードデリバリーの配送員をやっていた」というニュースも少しずつ出てきている。
卒業生が進路を見つけられたかどうかは大学の評価に関わるだけに、「無職と申告したら卒業証明書は渡さない」といった圧力をかけられることもしばしば。仕方なく、では「柔軟な雇用で……」と回答する人もいるのだという。
こうした事例を考えると、柔軟な雇用と回答した人の多くはやはり理想の仕事に就けていないのではないか。すなわち、中国トップの名門大学ですら、卒業生の約1割は望んだ行き先を見つけられていないことになる。となれば、それより下位の大学の状況は言うまでもない。