政府は雇用対策を打ち出したが…

学生の雇用確保に、中国政府も力は入れている。たとえば、中国共産主義青年団(共青団)は昨年、「大学生雇用10万人サポート計画」を打ち出した。国有企業を訪ねて雇用拡大を申し込むほか、経済成長が遅れた西部地区で教員や行政職につく西部計画、農村の農業・教育・医療・救貧事業を支援する三支一扶プロジェクトのスタッフ、そして団地の公共サービス・スタッフなどで10万人の雇用を生み出すプランだ。

とはいえ、西部計画や三支一扶プロジェクトは学生の多くが参加を嫌がってきたプロジェクトだ。農村での農業、教育、医療の取り組みや貧困脱出支援を行うプロジェクトで、一般的には2年間の勤務となる。中国の大都市部はもはや先進国並みの生活水準だが、農村は完全に別物だ。建物も道もぼろぼろ、娯楽もない。どこにでもコンビニがあるし、スマホを開けばすぐにデリバリーでなんでも品物が届く都市とは別の国のようだ。そんな厳しい世界に派遣されても、給与は都市の企業の半分程度にしかならない。

誰も行きたがらないので、「がんばれば正規の地方公務員になれる……かもしれません」「2年働いた後に大学院へ進学すると学費減免などの優遇措置があります」といったニンジンをぶらさげてきたが、それでも人が集まらなかった。就職難だからといって、あまり気乗りしない進路であろう。

都会の中国・広州の景色
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団地のスタッフをやりたがる若者はいない

団地スタッフも仕事を辞めた中高年の仕事とされてきた。団地内を巡回して高齢者に異常がないか訪ねたり、設備の故障がないかチェックしたり、あるいはケンカがあれば仲裁するといったなんでも屋的な仕事である。この仕事をがんばっても、なにかのスキルを身に付けて昇進するという見込みはない。野心あふれる若者がやりたがる類いの仕事ではない。

というわけで、なるべくならば避けたい仕事であるが、では「柔軟な雇用」とどっちを選ぶかと問い詰められると悩ましい。

中国共産党にとって最大の課題は政権の維持である。そのためには外敵の侵略(民主主義思想の流入によって、政権交代が起きる平和的体制転換を含む)を防ぐ必要もあるが、それ以上に重要なのは社会秩序の維持だ。そのために監視カメラを張り巡らせ国内世論を検閲し万が一の事態を未然に防ごうと努力しているわけだが、何より重要なのは雇用の確保である。人民に仕事を与え、生活できるようにできていれば、革命は起きない。

ただ、中国がひたすらに貧しかった時代と、豊かになった現在では状況は変わりはじめている。貧しい時代ならばともかく雇用を作り出せばそれで良かったが、今では「自分に見合った仕事」を求めるニーズが高まっているからだ。