──選手のやる気を高めるのに最も重要なことは何ですか。
繰り返しになりますが、選手たちは注目されたい、見てもらい、気にかけてもらいたいと思っています。そういう意味で、監督はチームのあらゆる選手に注目しなければなりません。
ただし、一般のビジネスマンと少し異なるところもあります。例えば、試合にあまり出られない選手に、「私は君のことも信頼している。努力し続ければ必ず出番があるはずだ」という話をしたとしましょう。これが私とその選手の間の話で終わればいいのですが、代表選手は世間の注目の的ですから、その選手がメディアに話すかもしれません。家族や友人に話して、それがメディアに漏れるかもしれません。そうすると、「監督の真意は別のところにある」という意見が出て、私と選手との信頼関係にひびが入りかねない。会社の上司と部下の関係だったら、上司に言われたことを家族や友人と逐一、共有したりしないでしょう。代表チームを率いる場合、そういう可能性も考えながら選手とコミュニケーションしなければならないのです。
(神戸大学大学院経営学研究科教授 高橋 潔=インタビュー 萩野進介=構成 若杉憲司=撮影 PANA=写真)