世界各国の軍隊は法律の禁止事項以外は「できる」
「デジタル政府」が進まない問題は、実は憲法9条問題と根っこは同じなのです。
憲法9条において、日本は国際紛争を解決する手段としての武力の行使を放棄し、陸海空軍その他の戦力は保持しないとされています。
武力の行使は絶対にしないというところからスタートし、自衛権の範囲でそれを使用する場合があるからと自衛隊ができ、そして必要最小限度の自衛力しか保有しないし使わないとなりました。
そこで自衛権の範囲内で武力行使として「できること」をひとつひとつ法律でリスト化していきました。
裏を返せば、法律で許容事項としてリスト化されたこと以外は何もできないということです。こうしたやり方を「ポジティブリスト方式」といいます。
他方、世界各国の軍隊は、自衛権の行使としての武力行使は国民・国家を守るうえで必要なことはすべてできることを大前提に、「できないこと」だけを禁止事項として法律でリスト化する「ネガティブリスト方式」をとっています。
これはつまり、裏を返せば法律で禁止事項としてリスト化されたこと以外は何をしてもいいということです。
有事の戦闘状態では当然、禁止事項を列挙したネガティブリスト方式が合理的です。ポジティブリスト方式だと、有事で何が起きるかを事前にすべて予測して、国民・国家を守るために許される武力行使を完全に法律化することが求められますが、それは不可能です。
有事は予測できないことの連続なのですから。法律で禁止されていること以外は原則「できる」というネガティブリスト方式をとらざるを得ません。
マイナンバーの法体系を変える
これと同じことがデジタル政府問題においても生じているのです。
マイナンバーに各種の個人情報をひもづけて、必要なときに政治行政が使えるかたちになっていれば、一律給付金についても非効率な方法は避けられたはずです。
マイナンバーに預貯金口座番号や携帯電話番号、メールアドレスをひもづけるだけで、適宜必要な人に行政から情報提供や給付金の支給ができます。
しかし、マイナンバーの現在の法体系は「できること」を法律で列挙するポジティブリスト方式となっており、一律給付金の事務にマイナンバーを使うことや、マイナンバーと預貯金口座番号や携帯電話番号・メールアドレスをひもづけることは明記されておらず、それらはできないとなっていました(その後、預貯金口座をひもづけられることが法律に明記され可能となりました)。
ここが、デジタル政府が進まず、日本がデジタル化しない根本原因です。
ゆえに、個人情報の目的外使用や情報漏洩、のぞき見などやってはいけないことを明記して厳罰化し、それ以外は個人情報をフルに活用できるようにマイナンバーの法体系をネガティブリスト方式へ変更することが絶対的に必要なのです。
自衛隊に関する法体系をネガティブリスト方式にするのは、憲法9条の改正が必要になり、ハードルは高いと思いますが、政治行政と社会のデジタル化に関する法体系を改めることは憲法改正までは必要ありません。法律の改正でできます。
行政や社会を大胆にデジタル化するためには、ネガティブリスト方式の法体系の下でマイナンバーとあらゆる個人情報をひもづけていくことが必要不可欠であり、これこそがデジタル社会の進展に向けてのセンターピン(ここを実現すれば、すべてが変わっていく急所)です。