旧統一教会を巡って悪質な高額献金がたびたび問題となっている。このうち中野容子さん(仮名)は、亡き母が1億円以上を「献金」として不当に奪われたとして、最高裁に損害賠償請求を上告している。どんな手口だったのか。フリージャーナリストの宮原健太さんがリポートする――。
裁判所の看板
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最初の異変は父が他界したときだった

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を巡る問題はまだ終わっていない。今もなお、教会側と係争中の案件を抱え、苦しんでいる被害者が少なからずいるからだ。

その一例として、母による1億円以上の献金を巡って最高裁に上告中の中野容子さん(仮名)を取り上げる。

神奈川県に住む中野さんが最初に異変に気が付いたのは、14年前(2009年)のこと。長野県の父が亡くなったときだった。

父は金融資産を運用するなどしていて一定の遺産があったはずなのだが、実家暮らしの母に聞くと「全くない」という答えが返ってきた。「どうして?」と聞いても「分からない」と口をつぐむばかり。ただ、このときは「お父さんが株に失敗したのかな」と思い、納得することにした。

「私が全部寄付しちゃった」1億円以上献金していた

真相が分かるのはその6年後の2015年8月。父の7回忌で家族が集まり、父の思い出話に花を咲かせていたときのことだ。「お父さん、最後は運用に失敗したのかなぁ」。何気なく口にした中野さんに、母から思いもよらない言葉が返ってきた。

「失敗したんじゃないよ。私が全部寄付しちゃった」

「寄付? 何に?」と戸惑いながら問いかけると、親族の紹介で旧統一教会に入り、1億円以上の献金をしていたことが分かった。聞けば、父の財産だけでなく土地まで売ったのだという。

これまで隠していたことを話してせきが切れたのか、母は「こんなにお金に困ったことはない。もう嫌だ」と感情をあらわにし、大きなため息をついた。

困った中野さんが弁護士に会って相談したのは、11月下旬だった。しばらくは返還に向けて教会側と直接交渉をしていたが、向こうは「不起訴合意が成り立っている」と言って応じず、とある文書のコピーを出してきた。母が寄付や献金について「私が自由意思によって行ったもの」として署名、押印したという念書だ。

そこには「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」という内容や、「寄付等について必ずしも快く思わない私の親族らや相続人らが、後日無用の紛争を起こすことがなきよう、私の意思をここに明らかにする」といったことまでわざわざ書かれていた。