寺院の「M&A」が活発化している。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「檀家減少などに伴って“食べていけない寺”が増える一方、資産家や企業は、ブローカーを通じて宗教法人格を取得して姑息な税金対策をしたい。宗教法人格の売買をするために、大手宗派から単立寺院になる動きが加速しているが、規制強化を検討すべきだ」という――。
京都の東福寺の本堂
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増加中…裏の目的で資産家や企業が宗教法人を買収

近年、寺院の「M&A(合併・買収)」が活発化してきている。その背景はさまざまだが「裏の目的」で民間企業や、資産家が宗教法人を買収することが、しばしば行われている。

裏の目的とは、宗教法人格を取得し、非課税部分を利用した税金対策などである。寺院が民間企業に対し、対価を得て宗教法人の名義を貸すケースもよくあるが、こちらも違法だ。宗教法人格の売買は、資産隠しなどの不法行為の温床になったり、カルト教団がアジトとして活用したりするなど地域の安全を脅かす元凶にもなっている。

一戸建てやマンションを買うように、寺院や神社の売買は可能なのか――。多くの人にとっては、なんとも不可解な話に聞こえることだろう。しかし、実際にはこれまで多くの宗教法人が第三者の手に渡って、悪用されてきた歴史がある。

宗教法人格の売却に絡んだ犯罪はしばしば起きている。過去の例を挙げながら説明しよう。

2010(平成22)年10月13日付、毎日新聞大阪版朝刊では『寺の法人格、売却詐欺容疑で京都の住職ら逮捕』の見出しで報じている。記事によれば、宗教法人格の売買をめぐって、詐欺容疑で京都市内にある古刹こさつの住職や責任役員が逮捕された。この寺は天皇家ゆかりの名刹で、重要文化財の本尊を抱えていた。民間企業への譲渡代金は1400万円で、企業側は前金として700万円を支払った。しかし、宗教法人格は譲渡されなかったため、被害届を提出した、というものだ。

また、福岡市の寺では2009(平成21)年に土地所有権が不正に移転登記され、神社の代表役員らが逮捕されている。逮捕された役員らは「納骨堂などをつくって売却するため、寺を乗っ取るつもりだった」と供述していた。この事件では暴力団もからんでいた(朝日新聞2009年3月23日付)。

寺院の売却をめぐって刑事事件にまで発展し、新聞沙汰になる事例はさほどは多くはない。しかし、水面下でトラブルになっているケースは、いま現在でも相当数あるとみられる。筆者の元にも、そうした相談がここ数年で3件ほどあった。

なぜ、寺は宗教法人格を売りたがり、企業や個人は買いたがるのか。