紙の本が速読に最適な理由

速読するために必須なのは、第一に、全体像を見通せることだ。記者会見に出て、その資料が1枚のペーパーなのか、数十枚にも及ぶのか。手にとったその重み、厚みで、人は読むスピードを調節する。適当なスピードを選ぶ。速読とは、大局判断のことだ。

第二に、行きつ戻りつできること、パラパラできることだ。速読をしていて、キーワードを見つける。そのキーワードは、前にも出ていたか、今後も頻出するのか。資料を繰って見つけだす。速読とは、高速移動のことだ。

したがって、速読にもっとも適したメディアは、紙の本ということになる。手にとって、厚みが分かる。全体像が見渡せる。ページを繰って、瞬時に移動できる。

電子書籍はどうか。のちにも書くことだが、わたしは電子書籍を否定する者ではない。本と、電子書籍とは違うモノ、異なる物体だと言っているだけだ。

電子書籍では、手にとって分かる「本の厚み」はない。全体のうち、いまはどこを読んでいるのか、ページ表示されるものの、それは数字データでしかない。どのあたりに、どんなことが書いてあったか、手で覚えているわけではない。だから、全体像を見渡せない。

人間は、数字だけを取り出して覚えていることはできない。読書とは、人が考えているよりもずっと、肉体的な営みだ。

また、電子書籍は「パラパラとページを繰って、瞬時に移動」することが、きわめて不得意だ。ページをめくるのがもどかしい。

速読というものは、紙の本でなければ難しいかもしれない。手のひらに載せて本がどの程度の厚みがあるのか。一段組みなのか二段組みなのか。いま開いているページが全体のどのあたりに位置するのか。似たようなトピックを扱っている箇所はほかにもあるか。たびたび目次に戻って参照したり、ページを高速度でめくって小項目を探したり。

※後編:2、3冊の同時並行読みを15分──「5つの読書術」を半年続けることで表れる変化とは?に続く

特設サイト:近藤康太郎『百冊で耕す』『三行で撃つ』(※試し読みや関連記事を公開中)

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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