ポータブルスキルが新しい専門性をつくる

実は私のようなケースは、少なくありません。かつて私が担当していたフリーランスの川岸さん(仮名)の領域は、プロジェクトマネジメントでした。能力は確かでコミュニケーション力も高い。紹介する企業からは常に高評価をいただいていました。

ところがそんな彼には弱点もありました。それは、英語力。「英語ができない」ことが彼の最大のコンプレックスで、ゆえに紹介する企業はすべて日本企業に限定されてしまっていました。

しかし、そんなある日、外資系企業からプロジェクトマネジャー人材の紹介要請があったのです。その企業が望むスキルに彼は完全にフィットしています。そう、英語力さえ除けば……(その企業で働くためには、最低限の英語能力はマストでした)。

私は思い切って彼をその企業に紹介しました。もちろん、本人は「無理です!」と固辞しましたが、それを「いや、できるから、絶対!」と無理やり押し込んだのです。

彼ならできると考えた理由もちゃんとありました。これは私の持論ですが、母国語でのコミュ力の高さは、他言語でも通用するのです。

逆にどんなに語学力があろうと、他者と関わろうという意欲に乏しければ、円滑な業務遂行は望めません。川岸さんにはたぐいまれなコミュニケーションスキルがありました。たしかに現時点での英語力は流暢とは言えませんが、素地さえあれば、あとは仕事をしながら鍛えられるはずです。

通りを一緒に歩く幸せなビジネスマンのグループ
写真=iStock.com/Xsandra
※写真はイメージです

高負荷な仕事がスキルアップにつながる

何も英語で文学作品を読んで議論しろというのではないのです。その領域での専門用語を身に付ければいいわけですし、特に技術系やコンサル系の英単語は、その多くがカタカナ語として日本でも流通しています。彼ほど勉強意欲が高い人であれば、多少の困難は最初感じても、いずれ慣れるだろうと確信したうえでの紹介でした。

もちろん相手の企業にもきちんと事情は話し、「最初こそキャッチアップに多少時間はかかるだろうけれど、能力は確かです」と太鼓判を押すことで、お試し期間がスタートしました。結果はこちらの予想通り。彼はまもなく業務委託先に馴染み、依頼主からも「彼で良かった!」と好評でした。仕事における確かな知識と相手の懐に入り込めるコミュ力が、英語上達にもつながったケースです。

その後、彼はどうなったか。もともと持っていたスキルに加え、「英語」という新たなカードが加わったのです。当然、フリーランスとしての仕事の幅も広がりましたし、紹介できる企業数も各段に増えました。

もちろん、仕事の単価もアップします。最初こそ「無茶ぶり」で「高負荷な仕事」だったかもしれませんが、確実にスキルアップにつながった好例と言えるでしょう。