年間来場者2200万、東京ディズニーリゾート(年間約2500万人)に迫る集客数を誇るイケアが、国内6店舗目をオープンさせた。同店の立ち上げを密着取材した。北欧の巨人が放つ次の一手とは?
「イケアでの買い物は楽しい」という声が多い。博報堂買物研究所の青木雅人所長は、その魅力を次のように分析する。
「もともと買い物には『物欲』と『買い物欲』の2種類があり、いい物を買いたいのが物欲、買い物自体を楽しみたいのが買い物欲です。イケアの店づくりはまさに買い物欲にアプローチするもので、エスカレーターで2階に上がるときから、わくわく感が演出されている。商品展示もインテリア雑誌のようですし、一度気になったけどスルーした雑貨類が、歩くうちに再登場するなど、購買心理も研究されています」
こうした楽しさがある半面、初めて訪れた人は買い物の仕方に戸惑うだろう。スウェーデンカラーの青と黄色の袋に雑貨を買って入れるだけなら問題はない。
むずかしいのは家具の購入だ。最初に鉛筆とメモを手に取って2階の家具売り場を回り、欲しい家具の番号を記入し、1階の巨大倉庫から自ら梱包された家具を持ってきてレジに並ぶ――というやり方は、一度経験しないと戸惑ってしまう。
こんな方式を取るのは、店での買い物はお客のセルフサービスに任せ、その分の経費を販売価格の引き下げに充てるためだ。以前は7990円だった戦略商品「ポエング」は、一気に3000円も安くした。
また店内はよくも悪くも「巨大迷路」だ。お客は、広い店内を回ることが“ウオーキング”になる。次第に疲れてしまうが、2階のフロアには「イケアレストラン」が設置されており、名物のミートボールやサーモンといったスウェーデン料理を味わうことができる。
1階には「ビストロ」と呼ぶ軽食スペースがある。ここのウリも低価格だ。たとえば人気商品のホットドッグは100円、紙コップで好きなだけ飲めるドリンクバーとセットにしても150円ですむ。
「買い物に疲れたり飽きたりしたときの休憩スペースを随所に設けるなど、動線の工夫もされています」(青木所長)
低価格で買える北欧式の家具、思わず衝動買いしてしまうような雑貨類。脱日常のレストランなど買い物する楽しみを武器に、日本のお客を魅了してきたイケア。だが専門家からは厳しい声も上がる。
「昔のイケアは我々家具屋が欧州視察に行くと思わず買ってしまったほど、レベルが高かったが、最近は違う。店に並ぶ商品は貧相になっています。確かに安いが、家具というよりバッタ品のようでしたね」(長年、家具業界に関わる関係者)
来店客は多いが「半数は買わずに帰り、レストランだけ利用する客が2割といわれる。最近は『格安の余暇消費型施設』として利用される」と指摘する声もある。
それでもイケアは「どんな形でも来店して、店内を見て商品に接してもらう機会があるのはいいこと」と楽観的だ。
※すべて雑誌掲載当時