「場当たり的な人事」のからくり

一方、随時異動型は五月雨さみだれ式に毎月人事異動があり、社員から「うちの会社の人事は場当たり的だ」と見られがちです。全体の半数、製造業では6割がこのタイプです。この随時異動型の会社は、少し格好良くいうと、VUCAブーカ(先行き不透明で予測困難)の時代なので、人事においてもアジリティを重視するという考え方なのです。

藤井薫『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中公新書ラクレ)
藤井薫『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中公新書ラクレ)

期首に限らず毎月多くの人事異動がある会社の場合、その人事異動ニーズはどのようなものでしょうか? そもそもなぜ毎月人事異動があるのかを考えてみましょう。「期中に組織改編があった」「期中にプロジェクトを行うことになった」「期中に退職者の欠員補充が必要になった」……いずれも、最初に「期中に」という言葉がつきます。中には、期中のどこかのタイミングで実施すべく、期首から計画していたというものもあるでしょう。

たとえば、期中の8月に新拠点を開設することが決まっていたが、人事異動発令は期首の4月ではなく7月に行うなどの場合です。

しかし、期首には想定していなかった組織改編やプロジェクト、欠員補充などに迅速に対応するために行う人事異動も相当数ありそうです。これらはいずれも、事業部門側のニーズによるポジション起点の異動です。人事部としては事業部門側に対して、それらは本当に期首には想定できないものばかりだったのか、もう少し計画的にできないのかと言いたいところだろうと思います。しかし、「事業推進上どうしても必要だ」と言われてしまうと、なかなか断り切れないのが人事部です。

「迅速に」実施するか「計画的に」行うか

ここで少し、事業部門側を擁護しておきます。どの会社も、どうしてもその時期にやるしかないという人事異動は、定期異動月でなくても実施します。対応が分かれるのは、緊急度がそこまでではない場合の人事異動です。

たとえば、何らかの環境変化に対応するための異動配置を期中の10月に思いついたとします。そこで、次の期首である4月を待って「計画的に」人事異動を行おうとするか、それとも、早いほうがよいという考え方で翌月の11月に「迅速に」実施しようとするかの違いです。

もちろん、個々の案件の重要度、緊急度の程度によりますが、それでも、基本的に期首に人事異動を行おうとする定期異動型の会社と、できるだけ早く実施しようとする随時異動型の会社に分かれます。

つまり、随時異動型の会社は、事業環境変化に迅速に対応すること(アジリティ)を重視する会社だということなのです。定期異動型には人事部の人事権が強い会社が多く、随時異動型には各部門の人事権が強い会社が多い理由です。製造業に比較的、随時異動型が多いのも人事権との関係でしょう。