役員候補は、いつ、だれが、どのように決めているのか。パーソル総合研究所、上席主任研究員の藤井薫さんは「経営人材としてのポテンシャルがある人材をどう見出して育成するかについては、人事部内でも一握りの人だけが知り得るブラックボックスになっており、ヒミツ中のヒミツだ」という――。(第3回/全5回)

※本稿は、藤井薫『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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人事部内でもヒミツの世界

経営人材としてのポテンシャルがある人材を早期に見出して育成していくことは、経営の最大関心事のひとつになっています。経営の肝いりで人事部の重点テーマとして取り組んでいる会社は多いのですが、その考え方や枠組みが社員全員に対して大々的に語られることは少ないようです。ましてや、その詳細や実態は人事部内でも一握りの人だけが知り得るブラックボックスになっていて、ヒミツ中のヒミツと言ってもよいかもしれません。

その主な理由は次の2つです。

理由① 対象者がごく少数だから

社員が1万人以上いるような会社でも役員候補者(次世代経営人材)の人材プール(候補者リスト)はせいぜい100人程度で、社員の1%ほどにすぎません。有り体に言えば、おそらくほとんどの人は人材プールに入ることがないからです。ちなみに、部長であれば全員が人材プールに入るというわけではありません。部長の中にも人材プールに入っている人とそうではない人がいるのです。「HIPO(ハイポ=ハイポテンシャル)人材」という言い方がありますが、HIPOの中でもとくに優れている人を対象にしようとしています。

理由② モチベーションへの配慮から

人材プールに入らない社員や、一旦人材プールに入ってもそこから外れた人のモチベーションを人事部が気にしているからだと言えそうです。ただ、次世代経営人材のキャリアパスに乗れないからといって、現実問題としてどれだけの人がどの程度モチベーションを下げるでしょうか。皆さんはどう考えますか? また、皆さんの会社の人事部なら、どう考えるでしょうか? これは全員が役員をゴールとする出世トーナメントに参加しているという前提で、人事部としては、なるべく本人に勝敗を気付かせずに、できるだけ長い間競争させようという発想に立っている証左と言えそうです。

おそらく今後は、さまざまな領域のプロフェッショナルが尊重され、経営人材もそのひとつだという認識が広がってくるはずです。そうすると、経営人材への意志と適性がある人材を早期に発掘して育成するという考え方が当たり前になり、その取り組みもヒミツ中のヒミツというほどではなくなってくるでしょう。もし皆さんがお勤めの会社で、すでに次世代経営人材発掘・育成の枠組みが社内にアナウンスされているのなら、考え方が進んでいる会社だと言えそうです。