がんになったらどうすればいいか。奈良県立医科大学附属病院の四宮敏章教授は「緩和ケアチームに相談してほしい。がんの苦痛は、身体的なものだけではない。最新の緩和ケアでは、『なんで自分ががんになったんだ』という精神的な苦痛にも対応している」という――。

※本稿は、四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

カウンチェリングシーン、カウンセラーに説明する女性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

「緩和ケア」は末期がんの人に限った療法ではない

がん患者さんの苦しみはさまざまな要素が複雑に絡み合っています。そこで必要とされるのが、精神的なサポートも含めた包括的な「緩和ケア」です。緩和ケアは、末期がんの人のための療法と思われている方も多いようですが、実際にはがん診断時から必要な治療です。

日本の医療にホスピスが取り入れられるようになった1970年代当時は、たしかに緩和ケアは死を前にした人の苦しみを取ることに重点が置かれていました。まさに末期の医療だったのです。

しかし現在では、もっと幅広い範囲の人たちに対象が広がっています。がんの治療中の人、がんはいったん治ったけれど再発が不安で生活に支障が出ている人、大事な人をがんで亡くしつらい気持ちで生きている人、そういう人たちも現在は緩和ケアの対象です。つまり、がんと診断されたときから緩和ケアは始まっているのです。

緩和ケアは終末期の医療から、がん治療と一緒に行う医療に変わったのです。

家族も患者本人と同じくらい悩んでいる

多くのがん患者さんは、がんと診断されたときから、「なんで自分ががんになったんだ」「がんになったら自分は死ぬしかないのか」「仕事は辞めないといけないのか、でもそうなったらお金は大丈夫なのか」「家族に心配をかけたくない」など、さまざまな煩悶に苦しみます。そして治療が始まると、抗がん剤の副作用などで苦しんだり、人によっては痛みや呼吸困難などの身体の症状が出てくることがあります。

また、ご家族も患者さんと同じくらい悩みます。「自分のせいで夫ががんになってしまったのでないか」「自分が異変に気づいて、早く病院に連れて行けばこんなに悪くならなかったのではないか」「自分は何もしてやれなくて情けない」……。

このように、治療前や治療中でも、患者さんとご家族はさまざまな悩みを抱えており、解決できないでいる場合も多いのです。

緩和ケアはそういった身体や心の悩みの解決を助けます。そして、前を向いて頑張っていくことを支えます。緩和ケアは、がんになった患者さんとそのご家族が、病気になっても、いやむしろ病気になったからこそ、自分の人生を自分らしく生きるために援助を行う医療なのです。