「女子に告白した」という噂はまたたく間に広がった

上里さんは父親に殴られないように、いつもビクビクしていたが、不思議なことに、父親は長女には暴力を振るわなかった。

「長女が父に暴力を振るわれないのは、父に対して強気だったからだと思います。父は弱い人をいじめるのが好きな人なので……」

長女は母親からも、“お人形さん”のようにかわいがられ、欲しいものを買ってもらったり、やりたいことを自由にさせてもらったりしていた。

「次女はまるで母と一心同体のようで、母は次女に依存していました。父がよく暴力の対象にしていたのは、母と次女だったので、お互いを護り合っていたんだと思います」

そんなDV家庭で育った上里さんは、戸籍上の性別は女性だが、幼稚園の年長になったとき、同じクラスの女の子を好きになり、幼稚園を卒園する間際に告白。相手から「気持ち悪い」と言われてしまう。

4月を迎え、小学校に入学すると、同じクラスになったその女の子が誰かに話したのか、「上里さんが女子に告白した」という噂はまたたく間に同学年に広がり、男子からも女子からも「気持ち悪い」と言っていじめられるようになってしまう。

きちんと置かれたランドセル
写真=iStock.com/Kana Design Image
※写真はイメージです

上里さんは、「自分はおかしいのだろうか?」と一人で悩み、ある日、学校でいじめられ続けることが嫌で、母親に「学校に行きたくない」と訴えた。

するといつもは優しい母親が豹変ひょうへん。「学校へ行け!」と怒鳴り散らし、家の外へ締め出される。上里さんは学校へ行くしかなかった。しかし、学校へ行けばいじめられ、つらくなってまた母親に、「学校に行きたくない」と泣いて懇願するが、母親の怒りはエスカレート。そのうち手が出るようになり、足が出るようになり、四六時中怒鳴られるようになった。

「母は、周りからは『優しい人』と言われていましたが、外面だけがいい人で、僕が『学校に行きたくない』などと反抗的なことを言うたびに、殴る蹴るをする気性の荒い人です。ただ、ほかの姉妹には一切暴力を振るわず、僕にだけ振るっていました。母は世間体が大事な人でしたし、自分に反抗されるのが許せない人なので、『学校に行きたくない』と言うと必ず殴って首を絞めて家から放り出されました」

上里さんが母親から殴る蹴るの暴力を振るわれていても、父親はおろか、姉妹でさえも止めたり庇ってくれたりすることはなかった。姉妹はゲームをしたり漫画を読んだりおもちゃで遊んだりしていて、上里さんが母親に一方的に痛めつけられている様子を“無視”した。