岸田首相は始終ニコニコ顔だったが…
日本と米国が、「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を結んだ。協定には、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」など、日本と米国の宇宙協力をスムーズに進めるためのさまざまな取り決めが盛り込まれた。
宇宙での覇権を目指す中国への牽制になるとの期待が込められているが、これで一件落着ではない。むしろこれから厳しい競争や交渉にさらされると、日本政府やJAXA(宇宙航空研究開発機構)は覚悟すべきだろう。
日本時間の1月14日、米ワシントンのNASA(米航空宇宙局)本部で行われた日米協定の署名式は、実に賑やかだった。
署名を交わすのは林芳正外相とブリンケン米国務長官だが、訪米中の岸田文雄首相、NASAとJAXAのトップ、日米大使、日米の宇宙飛行士と、総勢9人がずらっと並んだ。
9人の真ん中に座った岸田首相は「宇宙協力が力強く推進され、日米の協力分野がいっそう広がることを期待する」とあいさつ。
エマニュエル駐日米大使も「宇宙探査だけでなく、米国と日本のパートナーシップと友情を象徴している。新たな始まりだ」と力を込めた。
始終ニコニコ顔の首相に、SNSでは「岸田さんって、そんなに月探査をやりたくて仕方がなかったの?」などと、驚く声が投稿された。これまで宇宙に関して岸田首相のめぼしい発言はほとんどなかったからだ。
背景に猛スピードで力をつける中国の存在
NASAのホームページには、林外相とブリンケン長官が署名後に握手を交わす写真が大きく掲載された。日本のメディアも大々的に報じた。
ただ、この協定によって何か新しいプロジェクトが始まるわけではない。
「枠組み協定」という名が示す通り、日米の協力をスムーズに進めるためのさまざまな取り決めを定めた、いわば包括的な下地作りだからだ。
協定の対象は、月探査だけでなく、宇宙科学、地球科学、航空科学技術、宇宙技術、宇宙輸送、安全確保など、幅広い分野にわたり、宇宙で事故が起きた時の対応、知的財産権の扱い、輸出入にかかわる税の免除などのルールを定めている。
これまでは一つひとつ協定を結んでいたため、手間と時間がかかった。今回の協定によっていちいち結ばなくてもよくなる。これまでよりもスピーディーに日米間の協力が可能になるという。
背景には、ここ20年にわたって世界各国が想像もしなかったような速さで宇宙開発の力をつけている中国への危機意識がある。対抗するためにも、日米協力をスムーズに行えるようにしておかないとならない。
だが、これで日本は安泰、ということにはならない。日本にとっては諸刃の剣になりうるリスクもはらんでいる。アルテミス計画もそこから免れない。