ISS延長の見返りに、日本人飛行士を滞在させる
アルテミス計画は、壮大なプロジェクトだ。
2025年頃に月面に宇宙飛行士2人を送り、その後、月面に人間が滞在できる基地を建設、さらに火星への有人飛行を目指す。
当然、巨額の費用がかかる。米国だけでは賄えないため、国際協力の形で行う。
日本もアルテミス計画の一部である「ゲートウェイ」に参加している。月の近くに、人間が滞在できる宇宙ステーション「ゲートウェイ」を作る計画だ。日本はここに、システムや機器を提供する。
昨年11月、NASAと永岡桂子文部科学相が、その実施取り決めを結んだ。同時に、それぞれが注目を集める発表をした。
NASAはこの「ゲートウェイ」に、日本人宇宙飛行士の滞在機会を1回提供する、と決めた。日本は、国際宇宙ステーション(ISS)の運用期間の2030年までの延長に参加すると表明した。
「ゲートウェイ」への日本人飛行士の滞在は、ずっと日本が切望してきたことだ。欧州がNASAへの協力の見返りに、飛行士の「搭乗券」を3回分獲得していることも、日本政府やJAXAにとってプレッシャーになっていた。
一方、NASAは2024年までで運用終了予定のISSを、30年まで延長することを希望していた。
ISS延長という米国の要望に日本がこたえ、その見返りに、NASAが日本人飛行士のゲートウェイへの切符を提供した格好だ。
「日本人を月周辺に送る」だけで2400億円の追加費用
岸田首相をはじめとする日本政府、JAXAはさらに前のめりになっている。それは日本人飛行士を月面に立たせることだ。
バイデン米大統領もNASA長官も、事あるごとに、その実現可能性をにおわせている。
予算面や技術面などでの日本の貢献を期待してのことだろう。
米国はもちろん欧州も、自分たちの飛行士が月面を歩くことを強く希望しており、競争は激しい。長年、宇宙開発に携わってきた専門家は心配を募らせる。
「米国に頼んで日本人飛行士を月へ連れていってもらうことができたとしても、その『請求書』が怖い」
月面を日本人飛行士が歩くことができるようになるかどうかにかかわらず、ISSの延長と「ゲートウェイ」の同時進行は、これから日本にとってかなり重荷になる。
日本はISSに毎年400億円前後を投じている。日本政府やJAXAは、民間企業に運営を移管し、費用負担を減らそうとしている。だが、先行きははっきりしない。現在の費用のまま6年延長すれば、単純計算で2400億円、余計に費用がかかる。
その上、「ゲートウェイ」もとなると、宇宙予算はどんどん膨れ上がる。
安全保障予算の拡大、少子化対策、物価高対策……。喫緊の課題が山積する中、日本はどれだけ宇宙予算を増やすことが可能なのか。
日本人飛行士に月面を歩行させるために、米国からさらにどんな見返りを求められるのか。日本は何ができるのか。日本政府やJAXAは、国民にも説明する必要があるだろう。