米国についていくだけの現状に“不要論”も

だが、最近顕著になってきたのは、むしろ現在の日本の宇宙戦略が、不明瞭になっていることだ。安全保障での宇宙利用も含めて、いかに米国と協調して進めていくかが突出して強調されているからだ。

かつては「夢物語」と日本政府が一蹴した月有人探査や、無駄遣いの象徴のように言われてきたISSも、「米国が望んでいるから」と、重要視されるようになった。だが、そう判断した理念や、日本自身として今後どうしたいかは見えないままだ。

米国次第、という色合いが強まっている。

日米枠組み協定ができたことで、どんどん米国のペースで研究や技術開発が進む一方で、日本独自の強みとして守るべきものが検討されないまま、おろそかにされないかも心配だ。

実は2000年代に入ってから、政治家や企業などの間で、JAXA不要論が唱えられたことがある。多大な予算を使っているわりに、安全保障や産業に生かせるような成果が出ていない、という理由だ。

JAXAの注文を受けて、実際にロケットや衛星などを製造するのは企業だ。ならば、企業に権限を移してしまえばもっと産業が発展する、という意見が強まった。

JAXAが開発したロケット「H2A」の技術と打ち上げサービスを、2003年に製造企業の三菱重工業に移管したのもその一環と見られる。

政治家の中には、「ロケットは民間に任せ、これからJAXAは鹿児島県種子島の打ち上げ施設の管理人になるんだ」と言ってのける人までいた。

民間企業が主役の時代にJAXAはどうする

「宇宙基本法」ができて以来、JAXAは技術集団として国の政策実現を支えたり、産業振興のために技術協力をしたりするようになった。ベンチャー企業支援にも乗り出した。

こうした動きは、米NASAをまねたものだ。NASAは今では研究開発組織というよりも、スペースXなどの民間企業に研究資金などを提供する「予算配分組織」のようになっている。

JAXAのベンチャー企業支援も、当初は技術助言に限っていたが、2年前からJAXAの技術成果を使ったベンチャー企業に出資することも可能になった。

「金は出さないが、技術助言のために口を出す」から、「金も出すし、口も出す」へ移りつつある。ベンチャー企業が力をつければ、JAXAは「金は出しても、口は出せない」時代になるかもしれない。その時、JAXAはどうするのか。予算配分組織への道を歩むのか。